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高宮あきと云う奴によるDBトラ飯ブログです。pixiv(9164777)もやってます♪主に女性向けなので、嫌悪感じる方はご遠慮下さい(汗)。


by synthetia

未来師弟駄文ッス!(少年期)

急激に寒くなり始めましたね。
おかげさまでココアや甘い物ばっか摂取してしまいがち…(汗)。

さて冬コミ用の原稿前に息抜きとしてついつい、未来師弟駄文を書いちゃいましたのでアップですv

そして。
11/5の21時ごろWeb拍手にてコメントくださった御方!! ありがとうございます〜♪
もうもう張り切って新刊出せるよう全力を尽くします…!!








 瓦礫を撤去し、細かなものを退かし掘り当ててゆく。

 黒々とした煤は果てしなく続き、其処には何も無いのでは、と諦めかけていると、突如、白い破片と出会い、更に掘り進めると、かつて生きていた人達の成れの果てが『顔』を出す。
 …高温の炎で焼かれた為か、臭気が無いのがせめてもの救いだ。

 弔いの作業はまだまだ続く。

「辛ければ、休め。元は、俺一人で進める筈だったしな」
 夏の終わり、陽もさんさんと照りつける真昼である。気温はゆうに三十度をまわっていた。体力には自信のあった悟飯でさえ汗に塗れ、軽い疲労感に苛まれ始めている。
 しかし一旦手を止めてしまえば二度と立ち上がれない気がしたのと、なによりも、一緒についてきてくれたトランクスの手前、情けない姿を晒したくない悟飯だった。

 …肝心のトランクスは、と云えば。
「…いいえ。せめて、『あの子』だけは探してやりたいから。早く明るいとこに出してあげたいんですよ」

 人造人間に襲撃されたこの街には、トランクスと仲の良かった少女がいた。…ブルマに頼まれ、ボルトやナットを購入していた馴染みの工具店の娘である。まだたったの六歳で、欠けた前歯の、おかっぱ髪の女の子だった。トランクスを『おにいちゃん』と慕い、縄跳びやかくれんぼをせがんできたり、一緒にスイカを食べたりもした。
「此処にいた人達には、僕、本当にお世話になっていたから…。だ、だから、せめて…せめてみんなを、明るい場所に出してあげたいから。だから悟飯さん、もうちょっとだけ、僕にも手伝わせて下さい…お願いします」
 手足と頬、至る箇所を黒く汚した少年が涙混じりに訴えるのを、悟飯は目を細めて「じゃあ、あともう少しだけ」と、作業の続行を許可した。








 連ね、重ねてゆく









 死者、553名。
 それが、今日の作業の結果であった。

 全体を見回し、瓦礫の撤去率は約20%。漸く二割と云ったペースである。
 記録や帳簿も無く手探り状態だが、全体で5000名程では、とブルマは語っていたのを思い返し、午後の強烈な日射しの下で悟飯は軽く呻いた。

『明日にはちゃんと帰ってくるのよ、いいわね?』

 彼女とて、この奇襲にショックを感じている筈だった。
 なのに泣き言を洩らすでもなく、もう新たな方向を見据えている。
 このところ、夜な夜な細かい図面を睨みながら、最奥のラボの片隅で巨大なマシンらしき物を組み立てているブルマは何時だって生気に満ちていたし、一切の弱音すら吐かず、たとえ徹夜明けであろうと、次の日は平然と修理作業に駆けつけていたし、依頼があれば単独車を走らせ、その報酬で沢山の食糧を携えて夕方には帰ってきていた。

『…正直、あの街が無くなってしまうと、買物も命懸けかな…。ま、だとしても、食い扶持ぐらいは大人二人でなんとかカバーしましょう。それでいいわね?』

 これから先、物価も急上昇し、ますます食糧は手に入りづらくなる。
 育ち盛りのトランクスだけは、食べさせてやらなくては…。多少危険を伴おうとも、遠出をし、出来うる限り買い溜めをする必要性がある。

 そして。悟飯はこの先も、ブルマの『依頼』を承けなくてはならないだろう。
 己の能力と、『黄金の戦士』と云う呼び名は嫌だった。目立つ真似や、自らを持ち上げるような行為は好かなかったし、過分な扱いを受けるのも悟飯は気が進まなかった。しかし生き抜く為に必要だというのならば、目を瞑る他無い。

 ———明日にでも、彼女は悟飯へ依頼を投げてくる筈だ。
 ここ数年、ブルマと接してきた彼は、彼女の行動パターンを大体把握していた。
《この先、報酬を『貨幣』から『物資』へと切り替えてもらおうか…》
 但しそれも先方の状況と、ブルマの返答次第だろう。相談してみる価値はある。





「よし、トランクス。今日はここまでにしよう」
 巨大なシャベルで地表を固め、553番目の墓標を拵えた悟飯が投げたその声に、矢張り数十メートル先で十字架を組み立てていた少年は「まだこんな時間ですよ」と真上の太陽を指差した。
「もうちょっとだけ、頑張りましょうよ。…あ、でも…確かに、暑いですよね」
 顎からぽたぽたっ、と絶え間なく流れ落ちる汗を首に巻いたタオルで拭い、少年は一旦、作りかけの十字架に小道具を置くと、悟飯の元へと駆け寄った。塩と麦茶で喉を潤し、手頃な瓦礫に腰掛け、二人は小休止をとった。どちらも、微笑んではいなかった。
 食欲は無かった。予めそれを予想していたから、昼食は持参しておらず、どちらも水分のみを摂取し、進捗状況を提供しあう。このペースでいけば、あと九日はかかるのであろう、と。
「ごめん。疲れただろ? こんな事、キミにまで手伝わせてしまって…」
「何言っているんですか。僕、悟飯さんの片腕ですよ? それに『こんな事』だなんて言わないで。…悟飯さん独りで何もかも背負う必要なんて、無いんですから…」
 酷暑の中、しかも知人の遺骸を埋葬したばかりであるにもかかわらず、トランクスは悟飯の為に微笑んでみせ、その逞しい肩をバシッと叩いた。己を励ましてくれる少年に悟飯の頬は淡く上気し、子供のような眼差しを煌めかせ「うん」と頷く。
「有難う、トランクス」
「どういたしまして。僕だって何か役立つ事したいんだもん、悟飯さんばっかり目立つの嫌だし、それだけですよ?」
 それに昨日は散々迷惑かけましたしね…と、小さく付け足したトランクスの顔は瞬く間に赤く染まり、不思議がる悟飯の目線を避け、少年は空を見上げる。
「あーあ……こういう作業って、個人で行うものでしたっけ? 言い方悪いですけど、普通、役所や御上の仕事じゃないんですか、これ」
 悪戯っぽく文句を投げるトランクスに、悟飯はやっと口角を持ち上げた。その微笑に少年の胸は甘い鼓動でいっぱいになる。
「え…えっとさぁ…いえ、こういう言い方は無いかも、ですが…だってこんな事、悟飯さん一人で毎回繰り返していたら、気力も身体ももたないと思うし…」
「心配してくれるのか?」
「そ、そりゃあ僕のお師匠様だし、悟飯さんは僕達の家族、なんだからさぁ…」
「…有難う」
 悟飯がトランクスを引き寄せ、心からの感謝を述べる。衣服の上からでもそれと分かる青年の胸板と腹筋を間近にし、少年はその香りを吸い、更に鼓動を速めていた。

「なぁトランクス。今日はちょっと…別の場所で話をしないか?」

 珍しく、悟飯が道草する事を提案してきた。
「え…別に大丈夫、ですけど…」
「よかった! じゃ、案内するからついてきてくれ」
 その笑顔には見覚えがある。…まだ幼かった頃、当時は苦手だったニンジンを生で齧ってみせ『おいしい』と言ったトランクスに向けた笑顔、あれとそっくり同じだ…。
「ちょっと高速移動するぞ」
 こっちこっち、と、はしゃぎトランクスの手を引っ張る悟飯は、本当に幼い子供のようだった。トランクスは慌てて工具箱とシャベルを持ち、上空へ向かう。労働の汗と、気怠い真夏日の暑さが一気に吹っ飛び、天然の風と冷気が髪と濡れた服を撫でていった。





 向かった先は、南方の、ほぼ大海が広がるばかりのポイントである。

 先を飛ぶ悟飯に「この辺りなんですか?」と問えば、彼は「そうだよ」と振り返り、紺色の海原を見渡し「あっちあっち」と、ちょいちょい手招きをする。

 よく目を凝らしてみれば、ちいさな欠片のような島々が幾つかある。
 その中でも際立って面積のある無人島。遠目にも、緑と水源が豊かなのが分かる。
「悟飯さん、ここ、もしかして…」
「うん、そう。昔、ピッコロさんと修行していた場所だよ」
 キミを呼ぶのは初めてだったよな、と悟飯は歯をのぞかせて笑う。
「時々、此処に立ち寄ったりしていたんだけど…やっぱり人造人間たちも、こんな場所まで襲ったりはしていないみたいだな。全然、変わらないな、此処は」

 トランクスは悟飯に先導されるまま、砂浜に着陸した。

 絵本に出てくる南国のイメージそのままの無人島。
 ココヤシにシュロ、ソテツ、甘い香りのバナナが生えている。
 背の低い樹木が濃い緑となって連なるジャングルの先に、空へと続くのでは、と思わせる、それは高い崖がそびえていた。
 トランクスは幼い頃から、悟飯の昔話を聞かされ育ったため、此処が一体どういう場所なのかは即座に判断出来たが、実際目にし体感するのは、初めてだ。
 ざざん、と押し寄せる淡い水色の波。小さなカニが白い砂浜を横切っていく。
「うわぁ……っ! まるで写真みたいっ、絵本みたいっ、夢の中にいるみたい…!!」
 歓声をあげ、靴を脱ぎ波打ち際をパチャパチャと駆け出すトランクスを眺める悟飯の眼差しは細く、和やかな光を宿す。
 少年に続き、悟飯も靴を脱ぎ捨てジーンズを膝近くまで捲るとその後を追う。
「えいっ!」
 パシャッ、と、トランクスが海水をかけてきた。
 深い海と天空の蒼を溶かし込んだ色の眼差しが活き活きと輝きだすのを認めた悟飯は《此処に連れてきて良かった》と、心から安堵した。
「…お返しだっ!!」
 押し寄せてきた波を両手ですくい、悟飯はザブリ! とトランクスへ浴びせた。あっという間に髪から肩、胸元までびしょ濡れとなった少年は「くっそぉ、負けないよ!」と笑い、ザブン、ザブン、と悟飯に応戦した。
「あ〜あ…これもう、ビチョビチョだなぁ…」
「別にいいだろ、このぐらい。真夏だから直ぐに乾くし、風邪ぐらいで死んだりなんかしないさ。さ、こっちおいで」
「え………?」
「今晩の食糧探索。なんか入れ物を適当に作ろうか」
 そう言って、悟飯はサルのようにココヤシへ昇ると、ポイポイ、と実を投げつけてきた。ミサイル、あるいは弾丸にも似たそれを慌てて避けたトランクスである。
「ひぃ………!」
「ほらほら、それを拾って、こうして…割るっ!」
 間をおかず、あっという間に降りてきた悟飯はその実を片手で持ち、手刀で真っ二つにした。途端、瑞々しい香りと汁気が広がる。本で読んだ事もあるが多分…ココナッツジュース、とか云う代物だ。それが砂浜にダラダラと落ちて吸い込まれていく…なんと贅沢、かつ勿体ない光景であろうか…。トランクスの喉はゴクリ、と鳴った。
「ご、悟飯さん…それ、飲まない、の…?」
 少年は自分の手にした実を両手でかき抱き質問すると、悟飯はキョトンとした表情で「あ、飲みたいの?」と問う。コクコク、と頷いたトランクスは悟飯から割れた実を受け取り、まだ残っていた透明の雫を飲ませてもらった。
「すごい、甘ーい…っ! まるでジュースみたい…っ!!」
「…そっちの実も、割ってやろうか? そうだ、穴開けた方が飲みやすいかな」
 悟飯は指で器用に実の天辺に穴を開け、ほら、とトランクスに手渡す。わあぁ、と目を輝かせ、トランクスは瞬く間に全てを飲み干してしまった。ぷはっ、と息をつく少年に悟飯は「これ以上は腹冷やすからダメだぞ」と苦笑する。ちなみにココヤシの胚乳は、所謂『ココナッツミルク』の原材料でもある。
 昔、ここに滞在していた悟飯は、当時あたたかい物を口にしたい時にココナツミルクやジュースで煮付けを作ったりしたものだ。故に、コレの味はトラウマでもある。
 だが、トランクスがココヤシの実でここまで喜んでくれた事が素直に嬉しかった。
「さ、この殻に木の実を集めよう。食べられるのを教えてあげるから、ついておいで」
「はいっ!!」



 ナツメヤシの実、別名デーツと呼ばれるものから天然のバナナ、気持ちの悪い毛虫に酷似した実(?)らしき物や鮮やかな赤い果物を次々ともぎ、彼らは密林を突き進む。
 だらりと垂れ下がったツルを巫山戯て手にした悟飯が脅かしてきたりターザンの真似事をし始めたのには度肝を抜かされた。生まれてこの方、トランクスは、寡黙で物静かな悟飯しか知らなかったのだ。頬を紅潮させ、自然の最中を駆け回る彼は実際の歳よりも若々しく、寧ろ幼く見えた。だがそれさえもトランクスには好もしいし、純真で澄みきった悟飯の気質にますます惹かれ、胸が躍る。
「悟飯さんっ、ちょっと、待って! そんなに急いだら、果物落ちちゃうよ…」
「だって、メインディッシュを捕まえないと…『あいつ』美味しいから…!」
 あいつ?
「じゃ、トランクスはゆっくりおいで! 俺ちょっと行ってくる…!!」
 言い終える前に、悟飯はタンタン、と器用に木々を縫って瞬く間にトランクスの視界から姿を消した。…へ、と口を開きかけたその時、前方から「クエェェェッ」と、まるで恐竜のような鳴き声が響いた。次いで、地響き。ドスン、ドスンと巨大な生物が駆け巡る足音…断末魔めいた「グギャアァァァ!!」という咆哮。
「ふぅ…ちょっと時間かかったかな? お、トランクス、やっと来たか!」
 見ろよこれ大漁だろ? と朗らかに笑う悟飯の片手には…巨大な輪切りがでれん、と垂れ下がっている…。
 間違いない。アレ(※物体X)は、なんらかの肉片、だ…。

 密林を抜け、荒野を歩き、また密林。
 上空から見下ろした時はあれほどちっぽけだった島も、歩けば結構な面積があるのだと初めて知ったトランクスは、何時の間にか夜になっていた事に漸く気付く。
 ただでさえ、朝から殆ど何も食べていない上、育ち盛りの少年である。悟飯の後をひたすらついて歩くトランクスの腹がぐうっ、と鳴った。
「お腹、空いたの?」
 実は俺も、と言った悟飯の腹も豪快な音をたてた。二人は顔を見合わせ、笑った。
「あともう少しで、洞窟があるんだ。今晩はそこで休もう」
「え………」
「大丈夫。明日俺が、ブルマさんに叱られれば済む事さ。な?」
「…はい、僕は、いいですけど…」
 いつも厳しい悟飯が、自分に『お願い』をしてきている。それをなかなか実感出来ず、まるで絵空事のようにふわふわとしている。
 …でも。好きな人と二人きりで、誰にも邪魔されない場所で特別な時間を過ごせる。まだまだ幼い部分の残っているトランクスは喜び勇んで首を縦に振った。
「よし、決まりだな」
 うんうん、と嬉しそうに頷いた悟飯と共に歩を進めていく内、件の洞窟に辿り着いた。頑丈そうな岩肌に守られた、割と大きい空間が待っている。少し湿った土の匂いと、ひんやりと冷えた空気。無論、照明など何も無いから、中は真っ暗である。生まれて此の方、都会育ちのトランクスは洞窟の中へ入るのを躊躇し、ピタリと足を止めてしまう。
「ん…どうした? 怖いのか?」
「ちっ、違うよっ! …だ、だってここ、暗いんだもん…転んじゃうよ…」
 トランクスは口元を尖らせ、地面を蹴る。一番好きな人に子供扱いをされてしまうのが何よりも嫌だった。けれど、正直、怖いものは、こわい。
 先へ進み、入るのを躊躇っていると、悟飯のあたたかい手が少年の身体を引き寄せた。
「…大丈夫。荷物は持ってやるから、俺にしっかり掴まって、ゆっくりついておいで」
 その言葉通り、トランクスは両手を悟飯の腰へまわし、そろそろ、と青年の歩に合わせ、漆黒の空間へと潜っていった。…悟飯の体温が愛おしい。暗い事も、未開の地にいるのも忘れ、つい胸いっぱい彼の香りを吸い込んだ。
「トランクス、離れて。すぐに火をつけるから」
 ふっとかき消えた青年の体温にトランクスは怯えたが、ややあって、鋭く硬質な何かをガッ、ガッ、とぶつけ合う音が鳴り響き、一瞬、火花が地面に散ったのが見えた。
 そして、数分。それは小さなオレンジの点が暗闇に浮かび、瞬く間にパチパチ、と大きく揺らめく炎となって、岩壁と悟飯を照らしつけた。
 簡素ではあるが、大きめの石をぐるりと積んで拵えた囲炉裏。傍には、乾いた藁や薪が積まれ、編み目は粗いがしっかりとした敷物も用意されている。突然の来訪の割には、生活の匂いが感じられる…と、云う事は、多分悟飯は周期的に此処を訪れているのだろう…。
「さ、座って座って。これからこの肉(※物体X)を焼くから、先に前菜食べていてくれ」
 師匠の指示に従い、火の傍へ腰掛けたトランクスは煙に咳き込みつつも、ワクワクしながら野生のバナナを一本、食べた。種があり、口に出来る部分は少ないが、とろりと甘くてコクがあって、それは美味しかった。
 トランクスが気に入ったのもあってか、悟飯はいくつかのココヤシの実を持ってきてくれたので、飲み物にも困らない。それも少しずつ飲み、パチパチと爆ぜる炎と、よく動く悟飯の姿を眺め、そのいきいきした仕種と表情に思わず見惚れ、どうかこのまま時が止まってしまえば、と不届きな想いを抱き、慌てて脳裏からそれを追い出す。
 青年は、工具箱に入っていたナイフで巨大な輪切り肉を食べやすい大きさへ等分し、どこで手に入れたのか、大きな植物の葉を数枚取り出して次々と肉を包む。
「あ、そうだ。これ、肉と合うんだ」
 途中、悟飯はナツメヤシの実と、青いバナナを潰した物を、未だ残っている肉にたっぷりつけ、これは枝に刺して直に火で炙り、焼き上げる。肉汁と甘い脂がじゅうじゅうと滴り、食欲をそそる香りでいっぱいになる。やがて出来あがった簡素な料理は、これまで口にしたどんな物よりも素晴らしく、舌も腹も満たしてくれた。葉で蒸された肉には、海水を煮詰めて作った粗塩が相性良かった。果物だけで味付けした焼肉は特にトランクスが気に入り、何度も何度もおかわりを所望した程であった。

「…あのな、トランクス」

 悟飯は少しだけくぐもった声で「このままずっと此処で暮らさないか」と、投げかけてきた。悟飯らしくない冗談にトランクスは「ダメだよ、そんなの~」と、笑って青年の肩を叩く。
「僕たちがいなくなったら、かあさんが困るじゃない」
 …それに、世界を平和にしなくちゃダメでしょ? と、少年はバナナにかぶりつく。
「今は僕たちにしか出来ない事をやらなくちゃ。ね?」
「…そうだね」
 悟飯も自分のバナナを一口食べ、少年の言葉に頷いた。
 何故だか悲しそうな表情を浮かべた悟飯にトランクスは慌てて「でもそれ、いいかも」と彼に抱きついてみせる。
「僕ね。ずっと前にも言ったけど、悟飯さんとず~っと一緒に暮らすのが夢なんだぁ! だからさ、もし平和になったらソレやりましょう!!」
「あ………」
 焚火に照らされた悟飯の頬が更に赤く染まっていく。
「うん、決定。悟飯さんと僕二人で、この島で暮らす! 毎日、果物とお肉に魚とって食べて、楽しく過ごすんだ! うわぁ僕、やる気出てきた~!!」
 屈託ない底抜けに明るい笑顔で語りかけるトランクスに、悟飯もつられて微笑んだ。
「頑張ろうね、悟飯さん!」
「…うん…頑張る!」

 二人はまた肉を焼き頬張っては、世間話をしたり、互いの知っている都市伝説を持ち出し震えたり、しりとりをしたりもした。
 途中、トランクスが「悟飯さんの昔の話聞きたい」とせがんできたので、ピッコロとの修行に関するエピソードを語ればトランクスが「僕の方がよっぽどハードな修行させられてるじゃない」と野次り、悟飯に殴られ呻いたりした。
「ねぇねぇ悟飯さん。僕のお父さんって、どんな人だったの?」
 この問いには毎回同じ台詞で応対する。苦笑しながら悟飯はこう答える。「強くて、とても誇り高い人だったよ」と。

「トランクス、こっちおいで」
 手招きする悟飯の言葉にトランクスは従った。…やっぱり、悟飯はいい匂いがする。日溜まりの中でたわわに実るリンゴにも似た香りだ。
「これ、俺の宝物。トランクスにだけ、見せてあげる」
 言って、奥に積まれてあった藁の中から悟飯が取り出したのは、渋い色合いの木の箱だった。そろりそろり、と慎重な仕種で蓋を開けると、色彩豊かな沢山の鉱石が少年の目に飛び込んできた。半透明のものから、氷のように澄みきった結晶が炎の光を弾き、静かに煌めいている。
「わぁ…っ!! これ…宝石っ!?」
 興奮し、思わず身を乗り出して質問するトランクスに悟飯は「宝石じゃなくて、鉱石だよ」と笑う。
「こういうのは市場に出るような貴石とは違って、価値は低い石ばかりなんだけどね。…でも、研磨されて、どこにでもある形になった物より、俺はこっちの方が綺麗で好きなんだ。たとえば、これ」
 悟飯が、鉱石のひとつをそっと指で摘み、トランクスの手に乗せた。それは、岩石に包まれた淡い水色の石だ。南の海の波打ち際を削り取り固めてしまったかのような美しさだ。
「キレイだね…」
「うん。これ、俺も一番、好きなんだ。一見、当たり前の岩の中に、こんな綺麗なものが閉じ込められているなんて夢みたいで、いくら眺めても、全然、飽きなくて…。これ、まだ元気だった頃、おとうさんが買ってくれたんだよ」
「…そうなんだぁ。あ、こっちの桃色の石もキレイだな…」
「そっちは、ローズクォーツ。今、手にしているのは、アクアマリンさ。で、こっちは方解石。カルサイトって呼ばれてる。で、そっちのキラキラしているのが茶金石で…緑のシマシマのが孔雀石っていうんだ」

 トルマリン。クリソプレーズ。アメシストに、ジャスパー。
 夢の雫を固めたら、このような美しさになるのだろうか。
 トランクスは、母親の宝石やアクセサリー(滅多につける事はないが)を目にする事はある。だから、宝石は知っているし、ダイヤはキラキラして虹色に輝くものだという知識ぐらいはあった。 
 しかし、たった今、悟飯が見せてくれたこの色とりどりの鉱石こそが少年にとってかけがえのない美しいものとなり、魅了された。
 正直、母の宝石よりもこっちの方がずっと、綺麗だ。

「…キレイだなぁ、これ」
 飽きもせず、角度を変え、光を弾くさまを眺めるトランクスに悟飯は幼い少年のような表情で「これ、欲しい?」と問いかけた。迷う事なく、トランクスはコクン、と頷く。
「でもこれ、全部揃えるの大変そうだよねぇ…」
「ううん、これ、あげるよ。トランクス、キミにあげる」
「え…っ!?」
 師匠の唐突な言葉に飛び上がり、トランクスはブンブンと首を振り「ダメですよそんなの!!」と叫んだ。
「だってこれ、悟飯さんの宝物ですよね? 多分、ずっと大事にしてきたんでしょう…?」
 ———辛い事や、堪え難い哀しみを癒すのに…思い出の場所へと持ち出し、彼はこれらを眺め過ごしてきたのだろう。死んだ父親の事や、仲間や師の仇討ち…その全てに心を打ち砕かれそうになりながら、暗い洞窟の奥でたった独り、儚げな煌めきに目を細めてやり過ごしてきたのだ…。そんな悟飯からまたひとつ、大事なものが抜き取られていくのは耐えられない。それが、彼の亡き父親にまつわる思い出の品なら、尚更だ。
「悟飯さん、僕、悟飯さんの大事な物なら、いらないよ…」
「大事な物だから、キミにあげたいんだ」
 きっぱりと断言する悟飯は、真直ぐトランクスの顔を見つめた。
「こんな古い物は、欲しくないかな? ごめんね、いきなりで…」
「ううんそんな事ないっ! とってもキレイだし、むしろ欲しいよ!!」
「それなら良かった」
 取引決定、と囁いて、悟飯は鉱石標本一式をトランクスへと手渡した。
 見かけよりそれはずしりと重く、重厚な色味の木箱は長い年月を彷彿とさせる。師匠の大事な宝物だ。何があっても、これだけは守ろう…。どぎまぎしながら少年は箱をぎゅうっ、と抱え持った。
「おいおい、箱、壊すなよ?」
 それ結構古いものなんだからな、と悟飯は零れんばかりの笑顔を浮かべた。

 少年は悟飯へと礼を述べ、何時までもそうして笑っていてほしい、と心から願う。
 実際———どんな鉱石よりも———彼の笑った顔の方が輝いて見えたのだから。



 そして悟飯はまたひとつ、トランクスによって救われていた。
 重責から逃れてしまいそうになる己の弱さから引き上げてくれた少年の言葉と、表情に。

 話し疲れて眠ってしまったトランクスの小柄な身体を抱き、悟飯はそのまま身体を壁にもたせかけ、銀の砂を散りばめた群青の天空を仰ぎ見た。
 あの頃———ピッコロと修行をしていた折———は、この夜空を眺め、早く母の待つ家に帰りたいと願い、逝ってしまった父親が戻る日を夢見ていた。けれど今は…違う。
《トランクス。今は…キミが、いてくれるから…》
 
 明日には本来の『日常』が待ち受けている。
 ふと訪れた睡魔にそのまま目を閉じ、悟飯はトランクスの髪へ頬をすり寄せ、眠った。






 END. 



前回はシリアスの中に腐要素を含めたのですが、今回はほのぼの。
(OPはちっとも『ほのぼの』しておりませんが…汗)
未来師弟…たった二人きりという存在ゆえか、絆が半端無いカンジが好きですv
いつまでも好きです。そして懲りずに妄想し続けます…!!

余談ですが、明日、またひとつ歳とっちゃいます…い、嫌だなぁ(笑)。
by synthetia | 2014-11-08 17:48 | 駄文 | Comments(0)