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高宮あきと云う奴によるDBトラ飯ブログです。pixiv(9164777)もやってます♪主に女性向けなので、嫌悪感じる方はご遠慮下さい(汗)。


by synthetia

未来師弟駄文(少年期)書いちゃいました!

厨二病もいよいよ末期へ。なんかすっかり出来あがってしまった未来師弟駄文、続き書いちゃいました!

…うぅん…それとは別件で、実はこないだの無料本未消化な部分をどーしても書きたいんスが、それもなんだかなぁって感じで(汗)。
暗くシリアス気味な、でもむっちゃ甘々激甘な現パロを…実はもう結構書き進めてるんスよね…(遠い目)。

大半の方が多分もう「どーでもいいし」と仰るかもなので。
その内、此処でのみコッソリ限定公開で載せるかも、しれません…。

それでは未来師弟駄文にどうぞお進み下さい…!







 …あの人からまた大事なものがすり抜けていく。
 がらんどうの左袖がはためいていくのがとても痛々しいのに、彼は今日も穏やかに微笑む。

《…集中しろ……世界を白く焼き切るイメージだ》

 僕は、強くなった。
 背も伸びて筋肉だってついてきたし、今では彼と並んで飛ぶ事だって出来るんだ。

《目の前が赤くなって…我を見失う程の、怒り……怒れ……もっと…もっと…!》

 …なのに僕は、あの人を見失って、何時の間にかまた距離が遠退いていく。
 あんなに一緒だった時間は二度と手にする事は出来ないだろう、それは解ってる。

 けれど僕は、あの人の為なら幾らでも起てる。
 その優しさで傷をおい続けるならば、僕は貴方の盾となる。

 これ以上、貴方が悲しまなくてもいいように、

「はぁ……ハァッ、は、………!!」

 大事なものを手放さなくてもいいように、

 僕は―――今よりもっと強くなってみせる。
 未だ会った事さえないとうさんよりも、

 ―――貴方の父親より、ずっと。







 譲れないもの







「…此処にいたのか」
 明け方の海辺に、少年と青年の姿があった。
 先客である小柄な少年の周囲には砕かれた岩石が散乱しており、あたかも爆撃の直後のようだ。
「トランクス。…夜間に力はなるだけ使うな、そう教えただろう? 音で誰かが駆けつけてくるかもしれない」
「出来るだけ最小限に留めましたよ。まあ酔狂な大人が来たら花火をやってた、と答えるつもりでした」
 少年は肩をすくめ、舌を出す。その両目はけして笑ってはいなかったのだが、仕種は彼の年齢のそれである。
「…花火が岩を砕けるのか? もう少しまともな言い訳のひとつでも考えろ」
「ごめんなさい。僕が悪かったです、悟飯さん」
 少年は謝罪を済ませ、己の師へと向き直る。瞼をつんざく陽光の上をカモメが数羽、滑りぬけていった。
「悟飯さん。まだ休んでてもよかったのに」
「いや、充分な睡眠をとらせてもらったから体調も万全だ。それよりキミはここずっと、こんなに朝早くから自主トレなんかしていたのか」
 半ば呆れた、と云った態で、悟飯は少年の全身を隈無く眺めた。
「疲労の回復も、修行のひとつだ。あまり無茶はせず、充分な睡眠をとらないと成長を妨げる恐れがある。…久しぶりにこっちまで帰ってきてみれば、キミの気配が外から感じられたからどれほど焦った事か」
「あはは…す、すみません…」
 淡い寒色の髪を揺らし、少年———トランクスは、内心の葛藤を師であるこの青年に見破られないよう、敢えて陽気に年相応に振る舞いつつも———心は常に、数日前の夜に留まっていた。

 タイムマシンで過去に飛んだなら…Dr.ゲロをこの手で殺したい、と血を吐くような声で告白してきた悟飯。いくらトランクスが勧めようと過去世界に行く事を拒み、また彼はかつての師であるピッコロとは『会いたくない』と撥ね付けたのだった。
 いくら年上で力も強い悟飯と云えど彼も人間なのだ。だからこそ本当に慕う相手と再会し、喜んでもらいたい…というのが、トランクスの心からの願いだった。

 なのに———悟飯は『違う』と言いはり……泣いていた。

『俺は、キミを言い訳になどしていない…!』 

 理由はどうであれ、あの時自分は悟飯を酷く傷付けてしまったのだ、と時間が経つにつれ漸く理解出来た己の幼さに苛立ちを覚えつつも…そう、あの口論の後にこそトランクスの心は奪われ、削がれ、跡形も無くなる程に溶かされてしまったのだ。
 悟飯と自分は———関係はどうであれ事実上『結ばれた』仲だ。皮膚の温かさ、香り、互いの足と足を絡め合って誰にも許さなかった秘部をより深く繋げ合ったのだから———。
《違う! ……きっと、悟飯さんは、寂しかっただけだ……》

 諦めろ。そら後ろにはこれまで通りの悟飯がついてくる。
 あれは恋愛と呼べる代物ではない。単なる『戯れ』に過ぎぬのだ。

「どうした。そろそろ戻らないとブルマさんが心配するぞ」

 心此処に在らず、と云った態のトランクスを覗き込む悟飯の眼差しは穢れなく澄んでいた。海の見せる深い青と弾く光がなんと似合うのだろう。
「悟飯さん…そういうとこ相変わらずですよね…」
「…どういう、意味…」
「いいえ、別にぃ! じゃ、ウチの大魔王が雷を落とす前にさっさと戻りますか、ね? 悟飯さん!」
「…あ、ああ」





 深夜過ぎに遠征先から戻った悟飯、そして早朝の自主トレーニングを終えたトランクスの二人がブルマの元へ戻り、彼等三人は久方振りに揃っての朝食となった。育ち盛りの少年と肩を並べた青年は、それなりによく食べた。相変わらず寝不足気味の女主人はトースト一枚そしてサラダに珈琲だけと云った簡易的な摂取に留まっていたのだが、見知った顔ふたつが些細な会話をしつつ食事をしている光景を眺めているだけで心が和んだ。
「…さて! アンタ達はそろそろ外に出て時間でも潰してきて。こちとら色々忙しいし、準備あるからね。そうそう悟飯くん、今日はお使い頼むからトランクス連れてってあげて」
「………え? でも…」
 悟飯はブルマに何かを訴えたげに身を乗りだすが、彼女は「お黙り!」と、人差し指を突きつけるのみだ。
「いい? このアタシの命令は此処で暮らす以上絶対なのよ。アンタは黙ってアタシから買物リストとお金を受け取り、速やかにその子をこっから連れて出ていきなさい。夕方まで帰ってきちゃダメなんだからね!」
「な…なんだよかあさん、それって横暴じゃない!?」
 横ではなんだか困り顔の悟飯が『えぇ〜!?』という表情をしているのだから、助っ人せざるを得まい。だがしかしそんな事で引き下がるようならブルマはブルマではないのだ。

 結局、朝食を終えた少年と青年は、外へ放られる羽目に陥ったのである。





「あ〜あっ、かあさんの買物なんて、かあさんがすればいいのにさ。…これじゃ修行出来ないですよねぇ、悟飯さん」

 道すがら、吹き抜ける風にうーん、と背を伸ばしトランクスは愚痴を零す。
 ブルマの手渡してきた買物リストには生活雑貨から工具、果ては食材に至るまでの様々な要望が呪詛のように書き連ねてあった。これでは今日一日が埋まってしまいそうだ。到底、修行など出来そうになかった。
 またブルマは「フリーマーケットやってるから、そっちで買物お願い」と提案してきた。ずっと前に人造人間達によって破壊された街に徐々に人々が集まり、漸く活気が戻りつつあるのだ。
 瓦礫を撤去し、焼跡のみの平地に段ボール箱やベニヤ板を組み立てて棚を拵え、各々の品々を並べればそれなりに立派な出店が出来あがる。売る側も必死だ、揃わない物など無いぐらいに種類は豊富。一串から買える香ばしい焼鳥から、手の届かない宝石、金銀まで、雑多で人熱れで満ちたそんな場所に彼等二人は今、徒歩で向かっている。

 …横へ並び、黙々と歩く悟飯は、何も返してくれない。
 朝食の席での反応といい、きっと…この自分と一緒にいるのは疎ましいのでは、と思わなくもない。でも、あの海辺ではきちんと会話をしてくれたのだし、『あの日』以降も、トランクスの面倒はかかさずみてくれている。しかしそれは義理と義務からくるものだろうか、と少年は悩み、ひとり落ち込む。

 ややあって「…買物は手分けしようか」と、悟飯が呟いた。
 その声に縋り見上げれば、普段と同じ面持ちの彼がトランクスにメモを差し出し「これはキミに預ける」と告げ、そして紙幣を数枚、取り出す。
「俺は、持てる量に限りがある。キミは、リストの下半分を担当してくれ」
 肩をすくめ、少しだけ頬を紅潮させた悟飯の微笑にトランクスの胸は一気に熱くなる。しかし表面上は良き弟分でいようと、少年はわざと無邪気な振る舞いをしてみせた。
「え〜っ……悟飯さん、それはないですよ〜! コレ殆ど食品ばっかりじゃないですか。こういうのって、とっても面倒くさい……いてっ!」
「口ばかりは達者だな! いいか、俺の片腕だけだと物を丁寧に持てないし、それに見ろ、タマゴとトマトだなんて最悪だろ。キミが一番、良く食べるんだ、そのぐらいは役に立て、役に」
「んもうっ、暴力反対! いいですよ、わかりましたよ。じゃ、前半の買物はお願いしますね、悟飯さん」
「…ああ。お、そろそろだな。人、いっぱい見え始めてきた」
 少年とのやり取りを終え、悟飯はさり気なく数十メートル先に目線を向けすたすたと歩を進めた。どことなく、安堵している風に見てとれる彼の表情にトランクスは密かに鼓動を速めた。





 色彩豊かなパラソルと品々、行き交う人々。市場はたいそう賑わっている。 
 日常の風を味わいつつ、ただ穏やかに歩くのはなんと久方振りか。

 これまでの焦燥感と、人造人間に襲われている世界の事など夢のように思えてならない。此処には賑々しい人々の活気と喜び、希望が満ち溢れている。悟飯は「まるで日曜の動物園みたい」と称した。
 少年がどういう意味かと問えば「昔、おとうさんが元気だった頃の話」と、雲一つ無い晴天を見上げ、唇を綻ばせる。
「昔は、日曜になると娯楽施設に家族連れがいっぱい来るのが当たり前でさ。…うちのおとうさん、いつも何処かに行っていなかったけど、病気になっちゃうちょっと前に、家族みんなで動物園行ったんだ。珍しくおとうさんが連れて行ってくれたから、よく憶えている。…こういう風に、人がぎゅうぎゅうしてた」
「昔は、土日は出かけるものだったって、うちのかあさんも言ってました」
「そうそう。こういう所に行くと必ず迷子が出たりするのが定番だったな。…トランクス、こっちおいで」
 悟飯に手招きされ彼の右側へ回ると、有無を言わさず手を握られた。どうやらトランクスがはぐれないようにとの考慮だろうが、これではまるで小さな子供扱いである。通り過ぎる度に中年の男性やら母親ぐらいの歳の女性に「あらあら」と笑われ、少年はやりきれない気分だった。
「悟飯さん、僕、一人で歩けますって!」
「こういうのは気分だろ。あともうちょっと付き合ってくれたら開放してやるよ」
《違うよっ! …あぁあ…僕すごくカッコわる……》
 せめてあと十センチ身長が伸びていたなら、と遺伝子を呪わずにいられないトランクスは、それでもと、悟飯の右手を握り返した。悟飯もそれに応え、きゅっと更に力を込めてきた。

 そうして数分、もみくちゃになりつつどうにか辿り着いた最初のブースは、工具屋でも金属店でも、なかった。  
《あれ? …これって、悟飯さんに貰ったコレクションのに良く似てる…》
 ヒビだらけの大きな紫水晶。虹色に輝く岩石。…およそアクセサリーには不向きなれど、目を奪われずにはいられない欠片たちが店棚に置かれ、なんと地面にまで品々が広がっているではないか。
「いらっしゃい! 兄ちゃん、久しぶりだな。その子、弟かい?」
「弟、みたいなものです。…お元気そうで良かった。これ、見ていって良いですか?」
「見るだけならタダ、どうぞどうぞ、好きなだけ眺めていってくれ! なんせこのご時世だ。しょぼい半貴石や鉱石なんぞよりも宝石、金銀の方が人気あるからなぁ、閑古鳥が鳴くってもんさ」
「そうなんですか。…いいなぁ、何度眺めても飽きないや」
 小さな、赤子の爪ほどの鉱石をじっくり眺める悟飯はまるで少年の顔をしていた。悟飯はやっぱり、こういう物が大好きなのだ。なのにどうして己の宝物をトランクスに譲ってくれたのかが分からない。

『———大事な物だから、キミにあげたいんだ』

《そんなに大好きなら、僕にあげなきゃ良かったのに》
 傍にいる自分の事など忘れ、虹色の鉱石に目を奪われている悟飯。このまま置いていって本来の用事を済ませてしまおうか、と、少年は意地悪く考えた。
《でも、それもなんだかなぁ。…うん、付き合っておくか》
「…あぁ悪いなトランクス。俺、ちょっと用事があるからキミは先に買物済ませておいてくれ」
 折角、横に並んで付き合おうとしたのに…と、蒼い瞳は完全に不機嫌そうな色合いに染まる。
「はいはい、わっかりましたっ! じゃあ二時間後、一旦入口で待ち合わせでいいですね?」
「ああ悪いな。…気を付けろよ、トランクス」
 眉間に皺をよせ「イーッ」と舌を出す少年がひょいひょい、と人並を潜り雑踏へ消えていくのを見守ると、さて…と云った態で悟飯は胸元からホイポイカプセルを取り出し、空いた道端へそれを投げた。軽い爆音、うっすら浮かんだ煙が消える頃になると漸く姿を現した『それ』を悟飯は拾い上げ、鉱石屋の主人の前にコトン、と置く。

「…店長さん。これ、どのぐらいの値段になりますか?」





《んもう悟飯さんたら…結局、自分の趣味で道草してるんじゃないの?》

 自分より頭ひとつ分は背の高い大人達に揉まれ、トランクスはジャガイモとニンジンの袋と箱を抱え持ち、どうにかこうにか移動していた。リストの中にはチーズ・ベーコン・バター等もあったのだが、そんな物を最初に買ったら帰る頃には全て腐ってしまう事は間違いない。
 取り敢えず…あと数十分は休憩で時間を潰し、悟飯と合流して、その後に乳製品と肉関連を購入し、それから帰ればいい。段取は決定した。
《ふあぁ疲れたなぁ〜…なんでみんな、こんなに元気なの…。コレ、修行するよりキツくないッスか……えっと、とにかくどこか落ち着けそうな場所探そうっと》
 とはいえ、同じ事を考えている輩は多く、何処のベンチも皆、満員御礼状態だ。中には大口開けてイビキをかいている老人もいる。昼時に差しかかっているので、弁当をつついている家族連れも少なくない。
 よたよた歩を進めたトランクスだったのだが彼は漸く、会場の隅にあるヤシの木の真下に辿り着き、ジャガイモの箱を椅子代わりにどっかと腰を下ろした。それ程暑くない日にもかかわらず、纏ったTシャツとパーカーは汗でべったり濡れていた。
「あぁもう…っ! なんで僕がこんなとこで食べ物買い漁ってるんスか!!」
 今頃、あの身勝手で自由気儘な母親は涼しい地下で惰眠でも貪っているに違いない。いや待てそうとも限らない。しかし鼻歌混じりにテレビでも見ているのかも…。
「知るかあんな人! よしっ、僕だってそれなりの報酬貰うからな、かあさん!」
 人気の無いのを良い事にひとり叫んだトランクスは『もしもの為に』と手渡された自分用の財布をポケットから出し、紙幣の一枚を手に露店へと足を運び、サイダーを購入した。ほのかに緑がかった硝子瓶でピチピチ弾ける泡、よく冷えきった表面に滴る雫。なみなみと揺れるサイダーは清涼感ある香りで胸が躍った。
 木陰に腰掛け、トランクスは瓶に口を付け、ゴクゴクとそれを飲み干した。幸福な冷たさ、甘酸っぱさがシュワシュワと喉を駆け抜け、満たされる。
「ふあぁ……っあ〜っ……美味しかったぁ…!」
 あっという間に全てを飲み終えてしまった後、まるで鉱石にも似た硝子便を眺めて残りの雫を舐めていたトランクスだが、やがてはハッとした面持ちとなる。
《…悟飯さんもこういうの、大好きなのかな》
 しまった、と項垂れる。こういう自分の青臭さと幼さにつくづく呆れ、腹が立ち、落胆する。もしこれが悟飯の立場ならどうするだろう、と。
《悟飯さんなら…僕を待って、あのつっけんどんな物言いで…『これを飲め』って言ってくるんだろうな。それで…自分は『俺はいらない』って、笑うんだ…》
「よしっ! そろそろ時間だし、移動しなくちゃな」

 太陽はちょうど真上に落ち着き、地面の影は一層濃くなった。

 トランクスは腹をぐぅぐぅ鳴らしつつ、悟飯との待ち合わせ場所に急ぐ傍らでほんの出来心といおうか…その年頃ならば興味を示してもおかしくない店をちらちらと覗き見し…その値段一つで手にした野菜が倍以上買える事を知り、そそくさとまた歩く。
《僕、どうしてこんなに背が小さいんだろ。…こんなんじゃピアスなんか似合わないよ。どうしてこんなにガキ臭いんだろ…》
 空腹を告げる合図がひときわグゥ〜ッ、と大きくなる。気恥ずかしさでつい俯いていると不意に先程の悟飯の顔が脳裏に浮かんだ。…普段は物静かで落ち着いた表情しかしない彼が興味で目を輝かせていた、あの瞬間を。
 …トランクスはじっくりと計算し、待ち合わせの地点までかかる時間を割り出し猛ダッシュで例の店まで向かった。空腹など知る由もなかった。

「おぉさっきの子か! ん…この石が欲しいのか? よし、今日は特別サービスで、通常価格から2,000ゼニーも安くしちゃうぞ! ほい、まいどあり!」

 紙で包み、ガムテープでぐるぐる巻いただけの雑な包装の『それ』をポケットにしまうと、トランクスは会場の入口目指し、早歩きをしていた。肺から血の味がするぐらいにはキツい有酸素運動を繰り返していた彼だが、途中でとても見覚えのある姿を見つけ、足を止める。

 淡い色合いのデニムシャツとジーンズをひっかけただけの簡素な出で立ちの青年。だが、ツンとはねた黒髪と、がっしりした体格…何よりもがらんどうの左袖は見間違えようが無い。
 悟飯は店先で何かを交渉し、店主は首を横に振る。だが、青年は困り顔で「そこをなんとか…」と言っているようだ。唇の動きで読み取れた。
 ややあって、つるつるした頭部を光らせた店主らしい男は指でマルを示し、悟飯に何かを手渡した。…悟飯は「ありがとうございますっ!」と、ペコリと頭を下げ、大急ぎで待ち合わせとは真逆の方向へ駆けぬけていった。
《え? な、なんだよもう…》
 悟飯も、相当荷物を背負っていた様子だが、その移動速度はトランクスの倍以上だ。とても追えるものではない。
 なので、つい引き込まれるようにして件の店に足を運んだトランクスは、脂ぎって頭髪の全く無いその店主に「さっきのお兄さん、何をしていたの?」と、聞いてみた。
 すると、見かけに反して人懐こい笑みを浮かべた店主は丁寧に語り、汗をかいているトランクスに椅子を差し出し、水までご馳走してくれた。
「小さなお客さん、さっきのお兄さんはこれを買い取ってほしい、と売りに来たんだよ。…この剣、とても小振りだけれど、調べてみたらとても珍しい金属で鍛えられている物だったんだ。骨董品としての価値はとにかく、金属そのもののレートで計算して買い取ったんだけどね…いやぁ、もう少し待ってみたらもっと良い値段になるかもよって私も教えてあげたんだけど。…あのお兄さん、とても困っていたみたいだったんだよね。…で、小さなお客さんは一体、何を買いたいのかな?」





 ———トランクスと悟飯が再び顔を合わせたのは、約束の時間から三十分以上も経過してからだった。

「…遅いですよ、悟飯さん」
 物事はきちんと守る師匠を睨めるように見上げて、少年はそっぽを向く。
 何時になく不機嫌なオーラを醸し出した弟子を前に悟飯は素直に頭を下げると「待たせてしまって本当に、ごめん」と、謝罪した。
「お腹空いたんだろ。それに、重そうだな。そうだな、今日ぐらいは外でお腹いっぱい食べていこう。俺、おごるよ。荷物も手伝ってやるから…」
「…ほんと、一体何してたんですか…」
 こんなに人を待たせて遅刻して、と詰る口調のトランクスの眼差しはきつく険しい。
「あ、ああ、その。えっと…買物、が…うまく、いかなくて……トランクス、あの…荷物、貸せよ。持ってやるから、な?」
 背中に鉄板らしきものを背負った悟飯がそそくさと、少年から逃れるかのように地面に置かれたジャガイモの箱を持ち上げようとした、その時だ。
「………え、」
 青年の目線は、ジャガイモの箱の影に隠れていた『剣』に釘付けとなる。
 そして、屈んだままの姿勢で蒼い瞳の弟子を見上げる。悟飯のその目は『どうして?』と、純粋な戸惑いと驚愕で一杯になっていた。
「…トランクス……あの、」
「その剣。悟飯さんが売った物で間違いないですよね」
「…どうして、キミが…」
「いつか前。僕が未だ小さな頃、稽古で貸してくれた剣ですよね? …あの時、僕が折ってしまったのに、凄く綺麗に直してありますよね。こんなにも大切にし続けた剣を、貴方は、お金欲しさに売っぱらってしまったんですよね?」
 そんなに困っているならどうして僕達に相談してくれなかったんですか———と云う最終的な言葉を飲み込み、小柄ながらも激しい気性の少年はつかつか、と師匠へ歩み寄り、目線を彷徨わせるその両肩をぐっと掴んだ。
「…これは、ピッコロさんとの大切な思い出の品だった筈だ。そうでしょう?」

 ———貴方が大事なものを手放すなら、この僕が全部、取り戻します。
 成長期特有の掠れた声が、青年の心を射抜いた。

「…それでもまだ貴方が己を削っていくのをやめないなら、僕が貴方ごと奪ってみせる。悟飯さんが大事にしているものごと全部…」
 財布の中身———非常時用にとっておいた大金———は全て使い果たしてしまったのだが、今のトランクスに躊躇いなど有りはしなかった。後々、母に説明すれば激しい叱咤が待ち受けているのだろうが、この時を逃したら、金より大事な物を失いかねなかったのだ、致し方ないと言えよう。
「悟飯さん。さあ、その剣を持って帰りましょう。…もう二度と、こんな馬鹿な真似しちゃダメなんですからね」
「………」
 当惑に満ちた黒い両目を間近に、トランクスは内心の葛藤をぐっと堪え、またこれまで通りの『無邪気な弟子』を演じようと試みる。
 だが———少年に両肩を掴まれたままの悟飯は、まだ何かを訴えたげに立ち上がろうともせず、また、かつての宝であるその剣を手にしようともしない。

「———奪って、くれるか?」

「え……?」
 行き交う人々の波を遠目に、悟飯は『かつての宝』を少年に差し出した。
「貰ってくれ。頼む、トランクス。…それはもうキミの物だよ」
 だって貯金殆ど使ってまで購入したんだろ? と、悟飯は意地悪くつつく。
「その剣を使うには俺はもう大きくなり過ぎた。このままだと宝の持ち腐れになるだろ? …だったら誰かに使ってほしい。そう、その剣の価値の分かる人に」
「…っ、もうっ、悟飯さんはどうしてそう、話を掏り替えるかな」
 剣を売り払い、大金を欲した理由は何処にあるのか。そもそも、悟飯は実家からの仕送りがあるので生活費には困っていない筈である。…しかし、仮にも師匠であり成人している彼を、子供の自分がしつこく詮索してしまうのは失礼極まりない。
 それに、と、トランクスは思う。
《悟飯さんがここまで言うのなら…聞いてあげたっていいじゃないか》
「わかりましたよ、悟飯さん。…この剣は今日から、僕が使わせて頂きます」
 ———その憂いを払ってあげられるなら、幾らでも振るおう。この剣を。
「…良かった。ありがとう…トランクス」 
 上空を飛ぶ鳥の羽根よりも軽やかに笑む悟飯の髪が、正午の風に揺れる。
 この人にはかなわない———。
《あー…あと、かあさんへの言い訳、考えとかないとなぁ…》
 胃痛と頭痛のタネもしっかり増えてしまったトランクスだったが、忘れぬ内にと、先程購入した鉱石を悟飯へ手渡すのを忘れない。虹色のそれは通称『アンモライト』という名前の鉱石である。
 想像通り、ただでさえ大きな黒目が更に丸く見開かれたので《ああ良かった》と、心の中でガッツポーズをとる。いつも驚かされてばかりなのだから、このぐらいは先手をとりたかった。
「僕からのお願いです。この石、僕だと思って絶対に手放さないで下さい」
「え……」
「これね、願い事ひとつだけ叶えてくれるんだそうです。…っていってもただのキャッチなんですけどね。でも…せめてこれぐらいは悟飯さんの手元に残してほしいな。ほら! 全然こんなの価値なんか無いし、それに…えっ、あ…」

 気付けば悟飯の全身がトランクスを抱きしめ、包み込んでいた。

「ありがとう、トランクス! 俺、大事にする…!」





 ぎこちなく離れ、歪みかけた絆が修復された(それでも互いの胸の内は明かさないのではあるが)ふたりは、この半日を共に有意義に過ごし、ブルマに頼まれた買物全てを完了し、陽が暮れる頃、無事に地下シェルター内に戻った。
 そしてトランクスは何故、母が自分を外へと追い出したのかを漸く知る。
 機械弄り以外はあまり得意ではないブルマなりに精一杯飾り立てた食卓には、一人息子の好物ばかりを沢山並べ、不格好ではあるが美味そうなケーキも用意して待っていてくれたのだ。
「トランクス、お前もそろそろ大人の仲間入りね。このジャケットがアンタへのプレゼントよ。ほら、かっこいいでしょ?」
 一方で、悟飯はナビゲーター付きの腕時計をトランクスへ贈った。
 そのどちらの贈り物も、トランクスにとってはかけがえの無い『宝』となったのである。

《おとうさん……トランクスはあんなに喜んでくれたよ。これで、いいんだよね…》

 トランクスは知る由も無かったのだが…悟飯が手放したのは、あの剣だけではなかった。最愛の父・悟空から買ってもらった鉱石ラジオも、金と引き換えに売ってしまったのだった。
 しかし悟飯の胸の内はあたたかく満ち、こうしてブルマやトランクスと向き合っている事で生きている幸せを感じられる。素朴ではあるが、心を込めて作られたであろう手料理は皆、美味しかった。

 ポケットに入れた虹色の石をそっと握り、悟飯は心から笑った。
 そう、彼は何も失ってなどいなかったのだ。






 END. 



タイトルは、トランクスの心情ッスね。
「愛する人からこれ以上大事なものを奪わせない」とかいう、
そーいう自分の気持ちだけは譲れないっつー意味合いで…(遠い目)。
完全な力量不足。すみません自己満足ッス…!

まだ続きます…。


by synthetia | 2015-09-21 23:21 | (主にトラ×飯)駄文 | Comments(0)