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高宮あきと云う奴によるDBトラ飯ブログです。pixiv(9164777)もやってます♪主に女性向けなので、嫌悪感じる方はご遠慮下さい(汗)。


by synthetia

17号+未飯さん小説。

以前、支部にアップさせていただいた、『DB超』宇宙サバイバル編少し手前設定駄文です🎵
(ついったのフォロワーさんの影響がかな〜り大きいというか、最近とみに17号さんが気になるワタシ)


ついでに、内容は『健全』です。
ご了承ください💗
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 野鳥の叫喚で、彼は浅い眠りから覚醒する。仮住にと設えた薄暗いカプセルハウスの中で時計を確認すれば、未だ宵闇の最中である。
 かような事は日常茶飯事であったから、彼は軽く首を振ると淀みない仕種で立ち上がると軽やかに木製のドアを押し、騒ぐ鳥達の元へと急いだ。

 鳥獣保護区であるこの地を訪れる者がいるとすれば、それは密猟を目的とするハンターしかいない。絶滅危惧種はそれこそ一体だけで国全体の負債を補えるだけの金額で取引されるのだ、一攫千金を夢見る輩にとってはこの島はさしずめ黄金の塊、と云った所か。
 時刻は関係ない。たとえそれが夜半であろうが、動物や自然を窮地に貶める連中が来れば、それらを阻止し送り返すのが彼の生業であり、使命だった。欲に塗れた汚い奴等の足がこの聖地を穢す事すら許したくはない。
 銃声は未だ、無い。顎よりやや下まで伸ばした射干玉(ぬばたま)の髪を夜風に揺らし駆けつけた先には、奇妙なポッド状の乗物が蒸気をあげている。
《なんだ、こいつは…》
 これまで数万人の密猟者を迎え入れ捕縛し続けてきた彼ではあるが、かような乗物は見た事すら無い。ざわめく木々は黒々と影を落とし、ぽつりぽつりと葉の隙間から注ぐ月光を弾くその外見は、あたかも『卵』に酷似していた。







 余映のラピス







 …中にいるのは、ひとり。それは確かだ。
 だが不思議とそこからは『敵意の色』は感じなかった。
 さてどうする、と両手をだらりと下ろし、彼はその奇妙な乗物を見上げていると、乗物のハッチが作動し、中からひとり、若者が姿を現した。

 暗闇であれど、その容姿にはとても、見覚えがある。
 はて? と、彼が首を傾げていると———

「………ッ!!」

 その一族に見受けられる特徴的な黒髪を揺らし、瞬時にして着地したその『来訪者』は闘気を開放し、数メートル先で身構える。
 おい待て、と命じる間もなく、目前で『気弾』まで練り始めているではないか。それはまずい。
 戦闘に特化した存在同士がぶつかり合えば、被害はこの島のみならず、周辺の大陸にさえ影響を及ぼしかねない…だから彼は敢えて力は使わず、凛と言い放つ。

「…自然に危害を加えるな!」

 果たしてこれが通じるだろうか———と見守る中、来訪者の闘気は一瞬にして闇へと融け、黄金色に逆立っていた頭髪はふわり、と黒いそれへと戻っていった。しかし警戒を解く気にはならないのだろう、依然として敵意は『色』として伝わってくる。彼は溜息をついた。
「…お前、ひょっとして…孫 悟飯、か?」
 パーソナルデータと年月をマッチングさせ問うてみるも、相手はただじっとこちらを凝視し、ぎり、と歯を噛み締め拳を震わせていた。くせのある黒髪にくっきりとした眉、やや大きめの、愛嬌のある瞳には鋭利な敵意を滲ませ、みっしりと鎧のごとき筋肉に覆われた全身にもそれはあった。認識の無い者でもその様子から傭兵、或いは戦闘員であると感じさせるには充分であろう。
 …ずっと前に再会した姉から聞かされた『悟飯』の様子とはあまりにかけ離れている。確か今現在、悟飯は家庭を築き、助教授としてのスタートをきっていると耳にしていたのだが…。
「まぁ、お前が誰であろうと構わんが。…それよりもう一度だけ言うぞ。此処は環境保護区域で、絶滅危惧種も沢山生息している。オレはそいつらを守るのが仕事で、自然保護官として此処に滞在している身だ」
 ———だからお前がもし暴れるようならそれ相応の目を見てもらうぞ———と忠告し、見上げたその面差しは成程、確かにあの『孫 悟空』と瓜二つ。額から左頬にかけての戦瑕は随分昔につけられたものらしい。
 来訪者の剣呑とした眼差しは数秒、じっとこちらを観察していたのだが、ややあってうっすらと警戒を解いただろう様子で「…今、何年だ?」と問うてきた。彼はエイジ780年だが、と答えた。すると来訪者の青年は「そうか…」と零し、己の頭を抱えだす。
「何か不都合があるのかもしれないが、もうすぐオリックスの群が来る」
 …その前にどうかこいつをどかしてくれないか、と機体を叩く。
「こっちもそこそこには忙しい。出来るだけ休息をとりたいところだ。…とはいえ、正体不明の存在がウロウロしてたんじゃこちらも落ち着かない」
 だからオレに着いてこい、と、彼は来訪者の右手をとり、収納カプセルに件の乗物をしまわせると己の居住空間へと案内したのだった。

「…俺は、孫 悟飯。但し、こちらの世界の孫 悟飯ではない」







「…で? お前の目的とはなんだ? 孫悟飯」

 くどいようだが、此処には砂糖やポーションは無いからな、と彼———人造人間17号は自身のマグカップに口つけ琥珀色の飲物を味わう。いくら人外たる存在とて生物ベースなのだから睡魔は伴う。
「…ブラックが苦手ならば別のものがあるが」
「いや、飲める」
 どうやら自分の知る孫 悟飯とは違うらしい男は暫しマグの中身をじっと凝視していたが、息を吹き掛けそして、ずっ、と中身を啜る。途端、目を見開き、また一口、もう一口と試している様子だ。
「もうひとつの未来、か。…その話は姉貴から聞かされた事がある。遥か昔、オレ達の前に立ちはだかった奴等の中にも『トランクス』と呼ばれていた男がいた。…そいつが『未来』と呼ばれる別世界からやって来ていたというのも、知っている」
「………」
「孫 悟飯。お前は、どの世界からやって来た。お前の弟子は、息災なのか?」
「…え?」
「まぁ、いい。兎に角、お前の身に何か遭った様子は見受けられないしな。そっちのトランクスは元気でやっているか? そして、お前の目的を聞かせてもらいたい」
 17号は己のマグの中身を飲み干す。それから、ランタンの灯りを弱めに調節し、ラグの上に改めて腰掛け直した。
「…訳は話せない」
 話した所で理解してもらえない、と青年。
「俺こそ…聞きたい。何故、俺が此処に飛ばされたのか。そして…どうしてきさ…いや…貴方が、此処にいるのか…」
 察するに途中で言い直したのだろう。危うく吹き出すのを堪えた17号は「先程も説明しただろう」と、アイスブルーの瞳を来訪者へと向ける。未来の悟飯とやらの風貌はよく見ればあの大会社のロゴ入りのジャケットにジーンズにスニーカーと、アクティブに動きやすい出で立ちだ。どうやら戦闘が目的ではない、と推測される。
 短く整えられた襟足に対し、やや長めの前髪に続く意思の強そうな瞳をこちらへと向けた悟飯は「何故、貴方が…」と、まるで己に言い聞かせるかのように同じ言葉を繰り返すと首を振り、残った嗜好品をぐっと飲み干した。
「要するにお前、『何故、人造人間のオレが自然保護官をやっているのか』…そう言いたいんだろ?」
「………っ、」
「興味を抱くのは悪い事じゃない。答えてやるよ。…ま、家族を養う為と、元々こういうのが好きなタチでね。…それに、仲間だった奴の意志を継いでやりたいってのもあるかな。それに、稼ぎも相当のものだしな」
「…なか、ま…?」
 青年は首を傾げながら同じ言葉を繰り返した。そうしている様は、かつて遠目で見たちいさな少年の面影が浮かんでくるようだ。
「奴は、動物や穏やかな自然を愛していた。生き残ったオレ達にはもう、目的など無かった。だが、あいつの言葉やお前達との出会いがオレ達姉弟を変えた。つまりは、そういう事だよ」
「………」

 ———明るくなったら孫 悟空の元へいくのか?

 仮眠をとる寸前そのように問うと若者は「いいや」と頭を振った。ならばカプセルコーポレーションに足を運ぶか? そのように誘導を促すも矢張り答えはノーだ。
「もう少しだけこの地に滞在したい」
 厄介になるような真似はしないからと言いおいて屋外へ出ようとしたのを引き止め、仮眠用の寝台を提供する。多少の良心と、僅かばかりの人恋しさが17号を突き動かしたようだった。その申し出をされた青年も目を見開き、心底意外そうにへどもどしていたがややあって「それなら…」と、眼を細めて礼を言うと、身を横たえあっという間に寝息をたて始めた。歳はそこそこだろうが、寝顔は子供のそれだ。
 やれやれ、と17号はスマートフォンを取り出しC.C.のブルマへ連絡をとろうと試みたがその手を止め、待ち受け画面に映る家族の面々を眺め「どうしたもんだか」と肩をすくめた。







 日が昇り、有明を迎えたと同時に身体を起こす。
 眠気があろうとなかろうと、全身に血を巡らせれば覚醒出来る。それがこの数年の日課となっていたが、不意に鼻孔をくすぐる香りに気付いた彼は、簡易コンロの前に立つ若者の背中を見やった。
「此処、色々揃っているんですね」
 温めかえしただけだけど、と、レトルトのトマトスープとデニッシュ、後はどうやって見つけ出したのか、フライパンを使って目玉焼きを拵えたらしい。側にコーヒーも添えている辺りがしっかりとしている。
 腹が膨れ過ぎても動きが鈍るし、起き抜けはあまり食欲などない彼だったが、他人が用意した食事を摂るのは実に数年振りだった。自然光の元、静かに向き合って黙々と栄養を摂取する。悪くはなかった。
 食事が終わり食器の後片付けを済ませると、彼はノートパソコンを取り出し、これまでの侵入者のリストを更新し本部へ送信をする。それから、島の分布図に動物の数と種類、行動パターンを記載してチェックをしていく。こうしている合間にも、部屋の片隅に配置したモニタを観察するのも忘れない。日課だ。

 ———昨晩までの睨め付ける態度とは打って変わり、背後に控えている来訪者の眼差しはまるでどこぞの戦隊番組に憧れる子供そのもの、いちいち17号のやる事成す事に「うわぁ」だの「すごい」と、余念がないのだ。流石にこれには閉口せざるを得まい。
「もう一度だけ問おう、孫 悟飯。お前の目的はなんだ?」
 昨晩のあれはきっと、タイムマシンであろう。但しこの悟飯はまた別の時間軸に存在する次元の者であり、かの全王やザマスによって消滅させられた次元の『孫 悟飯』ではない。ともすれば…わざわざ時間の壁を乗り越えてまで過去世界に渡ろうとした理由、それを知りたかった。
《知りたい、だと…? バカな、こいつの理由を知ったとして損にも得にもならないのに》
「…オレもこうして暇ではない身分なんだ。その目的によっては速攻でお前を元いた場所へ強制送還だ」
「どうやって、ですか?」
「…取り敢えず、ブルマに連絡でもしてみるとする」
「面白いですね」
「なに?」
「いえ…。貴方は本当に『人』なんだな、って…」
 これまでの全てを含めた、複雑な面持ちで若者は微笑む。
「こっちのタイムマシンはその気になれば直ぐに帰る事が出来るだけのエネルギーチャージもしてあるし、去ろうと思えば今直ぐにでも」
 …ですが俺、実は大学でフィールドワークをやっているんですよ、と若者は自身の胸をトン、と叩き「どうしても調べたいものがあって」と譲らない。
「しかしお前、昨晩に頭抱えたろ。…要するにアレか? ジャンプする時代を間違えたんじゃないのか」
「…どうも、そうらしいです」
「だったらなおの事、ブルマに相談をするべきではないのか」
「それも考えましたが、気が変わったんです。…だって此処、興味深いし面白いから」
 悟飯はニコリと微笑み、頬杖をつく。
「言っておくが、客人を丁寧にもてなせる程の余裕も無いし、オレは勝手にやらせてもらうぞ」
「あ、モニター…」

 話は中断され、青年の指差す画面に目を凝らせば、海岸に小型船が数隻、停泊し始めていた。サングラスを着用した人相の宜しくない男達が手にしているのは、ショットガンとライフルである。
「行くぞ。宿代と思え」
 一切の了承も得ず、自分より遥かに身長も体格差もある青年の手首をぐい、と掴み取るなり息もつかず、疾走した。駆ける、と言うのも的確な表現ではあるまい。地に足はほぼつかずに飛翔していたのだから。
「コンビネーションは、得意か?」
「どちらかといえば…」
「そう答えてくれると助かる。18号と同じだけのものは求めない。だが、くれぐれも『殺す』なよ。あくまで追い出すのが目的だ」
「…もちろん。あと、注意点は?」
「極力パワーを抑えろ。気弾の類は禁止、動物たちにキズひとつでも負わせたらアウトだ。あとなるべく植物や木々も守ってやってくれ」
「注文、多いですね。でも…」

 承知しました———若者はそう言うと滑走の最中、ニコリと笑った。







 いざ密猟者の確保を任せたところ、青年は完璧にこなした。

 正直、この数年で築き上げてきた己のノウハウをいとも易々と身に付け、宙を舞う木の葉のごとき動きで銃弾を避けるどころか全て受けとめ、木々や植物、岩一つにさえキズをつけずに全員をお縄にかける辺りが大層、素晴らしい。
「なかなかやるな、お前」
 内心このままレンジャーとして迎え入れたい衝動もふつふつと浮上してはいたのだが、そこをあっさりと沈めてしまうのも17号ならではである。
 悟飯は汗一つかかず涼しい顔で「そうでしょうか」と肩をすくめ、濁りなき上空を仰いだ。
「…こういう戦闘、日常茶飯事でしたから」
 何かを含めた態でそう呟く横顔に一瞬だけ翳りがあったが直ぐに立て直すと「…まだまだ来そうでしょうか」と、笑んだ。

 追加はその後も執拗に攻め入り上陸してきたが、レンジャーとその見習い(?)となった青年の巧みなコンビネーションで島全体が守られ、気付けば正午はとっくに過ぎていた。人造人間である己はそれ程疲労も覚えないが、生身の悟飯には辛かろう。しかし勝手についてきただけだ、構う事は無い。
 そう心に堅く決めて島全体に変化がないか巡回しに行こうとした所で、尋常ならざるその視力が、遥か2km先の異変を捉えた。

 立ちすくむ二匹の仔オリックス。
 怯える彼等に、銃口をつきつける下卑たハンターの嘲笑…!

「…ッ、やめ、ろォ———!!」

 思考より理屈より先に突き出した右手が、蒼白きエネルギー弾を発射しようとしていた。

『おねえちゃん…!!』『ラピス!!』

 止められなかった過去の映像が、本人の意志お構いなしに脳内を駆け巡って、欲に塗れたニンゲンを抹消しようと神経回路が次々組み上がっていく、そして…。

「…駄目だッ、目を冷ませ…!!」

 は、と我に返れば、其処には戦瑕のある悟飯の顔がある。
 17号が体勢を整えエネルギー弾を収める合間には、既に先回りした若者の蹴りが見事、ハンターの顎をクリーンヒットして事態は終結していたのだった。
 仔オリックスに怪我がないか確認し無事と分かった所で解放すると「オレは全く平気だが、」と、17号は両手を振り、軽食を摂る事を提案した。







「オレがこの職業を選んだのは…ニンゲンが嫌いだからさ」

 カプセルハウスの裏手の切株に腰掛けた17号は、熱い紅茶で口を湿らせ、己の本心を吐露する。
「あぁ先に言っておく。だからといって世界全人類を殺戮してまわりたいだのとは全く思っていない、面倒だからな」
 …ヒトは皆、己を最優先する。欲を遂行しようと他者を貶め、蹴り落とす。優越感の為に友を裏切る、己が一番でないと許せない、もっともっとと手に入れたがる、地上の毒たる存在なのだ、と———鋭い双眸を更に吊り上がらせ、17号はカモミールの花へと触れた。
「綺麗事を言うその口が、一方で裏切りを告げる。嘘で塗り固めた虚像を何よりも重んじるくせに、真実を見ようとしない。…弱者を踏みにじり、逆らえない奴等を蹴り落としてまで手に入れるものとは、何だ?」
 …勿論、そんな奴等ばかりが『ニンゲン』ではないのも分かってるけどな…と、瞼を下ろしフッと笑んだ保護官は、冷めない内に食え、とケバブサンドを突きつけた。
「オレは、奴等に恨みしかない。ニンゲンと足並揃えて生きるなんて器用な真似は出来ない。…それに、自然や動物は、嘘なんかつかない。純粋なその『色』以外、感じないからな」
 ———話が長くなってすまなかった、と、17号はその場を去ろうと踵を返す。だが、サンドを手渡された青年は「…うらやましいな」と呟くと、その後姿を眼で追い、もう一度、言った。
「俺はずっとずっと、憎んでいた。何も知らずに…ただ、戦って倒しさえすれば…全部、元通りになるのだと、信じていただけだった」
 ———貴方に出会えてよかった、と、悟飯。
「でなければ、憎しみのままで終わっていたから。…あと、」
 このケバブ、とても美味しいです…と、後は咀嚼する音が木々のざわめきを縫って17号の耳に届く。
「…業務を手伝ってもらった報酬といってはなんだが、」
 …お前がタイムマシンに乗ってきた目的、手を貸してやってもいいぞ…と、17号のつっけんどんな物言いにケバブを頬張ったままの青年は勢いよくその場から立ち上がり、口中の物を飲み込むと「ほんとですか?」と、目を輝かせる。
「大学のサークルでフィールドワークをやってるの、お話しましたよね。…それに関連した事になるんですけど」
 もごもごと口籠る若者の頬は見る間に真っ赤に火照り、初対面の折の戦士たる姿とはあまりにかけ離れている。あぁいいから早く話せ、と寒色の瞳をつり上げる保護官に悟飯は「はっ、はい!」と、姿勢を正した。
「…子供の頃。約一年間、ずっと滞在した島で俺、とてもとても綺麗なトカゲを見つけたんです。おとなしくて、空や海みたいに鮮やかな青の、大きなトカゲを。…後になって知ったんですけどその子、絶滅危惧種のイグアナだったんです。世界が平和になって、大学通うようになってそれを思い出してみんなに話したんですけど、どうしても信じてもらえなくて…」
 ———本当にいたし、遊んだりもしたのに、と、悟飯。
「で? お前の時代にもう、そのイグアナはいなかったのか?」
「はい…。休暇とって、あの島に赴いたんですけど、どんなに隅々まで探しまわってもあのイグアナはもう。俺が小さな頃に見かけたのがきっと、最後の一頭だったのかもしれない…」
「…ふん、だから『過去』に飛ぼうとしたのか。で?」
 捕獲して自分の世界に持ち帰ろうとでも考えていたのか? と、ややきつめの口調で持ちかけた17号の問いかけに対し、青年は「しません!」と、矢張り語気荒く叫び返した。
「俺は…見たかったんです。自分の思い出が嘘じゃなかったのだと、真実だったのだと…再確認、したかったんです…。だからトランクスやブルマさんにも随分拝み倒して、このタイムマシンをお借りしたんですが…」

 本来ならエイジ760年あたりまで過去へ遡って件の無人島まで足を運ぶ予定だった…と、左頬の傷痕を撫でながら、心底無念そうに語る悟飯。
「悔しいか、孫 悟飯」
「ええ…で、でも、貴方とこうして貴重なお話も出来ましたから。それに…その、失礼かもしれませんが、まさかあの人造人間が自然を護る職業に就いているだなんて、夢にも……あっ、」
「やっと本音が出たか」
 ならばオレがお前の真実に立ち会ってやる、と口角を持ち上げる。
「こんなサービス、滅多にないんだからな。さぁ着いてこい。また密猟者どもに来られたらかなわん」

 彼等は森林を潜り抜け、やや湿度の高い苔むした岩場に辿り着く。

「…いたぞ。あれはグランドケイマンイワイグアナ、本来なら海岸で生息する種だが、時折、こうした森林で暮らす奴等もいたりする」
 体長にして約60センチ程の、鮮やかなブルーの全身。所々がエメラルドグリーンがかったグラデーションもあり、四肢は手袋をはめたかのように黒い。
 これがお前の求めていた『真実』か? …と問いかけるより早く、まるで子供に還ってしまったかのような無邪気な笑みを浮かべた悟飯は「わぁぁ…!」と、イワイグアナの間近に寝そべり随分と長い間、頬杖をついて飽く事無く、件の生物を眺め回した。
「…いいのか、これで。結局お前は他者に『真実』を証明出来ない」
 無論、カメラにその姿を収める事すらままならないのだから、果たして意味などあったのかどうか。
 しかし、晴れやかな表情で「実在していた事さえ分かれば」と、未来の悟飯は満足げに己の胸をトン、と叩く。

「…俺から『嘘』を感じとれますか? いいえ、此処には『真実』しかありません、そうでしょう」

 ———そして日が落ちるよりも先に、若者はこの時代を後にした。

『貴方の、本当の名前を教えてください』

 知ってどうする?
 と、返答するより前に、彼はかの青い鉱石にちなんだ本名を告げた。

『…その名はもう、使わないのですか?』

 最後の問いかけに、彼は答えずただ首を横へ振ったのみだ。

 タイムマシンのコクピットで暫し、複雑そうな面持ちをしていた未来の悟飯はそれでも漸く笑顔を浮かべ『素敵な名前ですね』と手を振り、元いた時代、次元へと帰還していったのだった。
 ———姉・18号から聞かされた話では、未来のトランクスとマイがいた世界は消失したのだ…と云う。救援を求めたはいいが、ザマスという狂った界王神見習いとゴクウブラックと名乗る悪魔によって壊滅させられた未来は、全王の決定でリセットされた、と…。
《だから、あの悟飯がやってきた世界はまた、別のものと云う訳、か…》
 ふと、遥か昔に剣を振下ろしてきた少年———トランクスの顔と、その頃の自分達が脳裏を過った。感傷に浸っている、とでもいうのだろうか。

 …別に、どうだっていいじゃないか。

 ただ自分は、過去と今を否定など、しない。
 人間だった折の痛みと喪失、それらも取り戻したくはないし、振り返りもしない。けれど捨て去りもしない。進むだけだ。もっと前へ。

《オレはもっと稼ぐ。そしてまた落ち着いたら家族サービスでもしてやらなきゃ、な…》

 現状の己を、姉弟を受け入れてくれた者達へ報いる為に。







 最初、空耳かと思えば———かつて標的だった存在、宇宙の神々をも凌駕する厄介な存在の姿を17号は認識する。その独特な髪型は世界広しと云えど、奴しかいない。

 ———今度は、父親の登場か。

 知らぬ振りを通すには、距離が近過ぎる。

 これが新たな冒険の幕開けになろうとは、17号は未だ知らない。





 

 END.
 

by synthetia | 2018-05-19 13:49 | (主にトラ×飯)駄文 | Comments(0)