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高宮あきと云う奴によるDBトラ飯ブログです。pixiv(9164777)もやってます♪主に女性向けなので、嫌悪感じる方はご遠慮下さい(汗)。


by synthetia

若社長の秘書さん駄文

このタイトルだけだと「…は?」な感じですが。

ぷらいべったーで投稿していた、トランクス(未来)の秘書さん駄文をここでもアップします!
※オリキャラがお嫌いな方々はリターン願います
※未飯さんも登場しますが、乙女入ってます

外見だけでいうなら相当な美人さんですが兎に角彼女はトランクスが嫌いです。
そしてトランクスもまた彼女には苦手意識を抱いています。
(それは、悟飯さんゆえに)

結構ふざけまくった駄文ですので、お暇潰しにどぞう!!

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 事の発端は、あのデコリンの所為だ。

 あいつが、あいつがちゃんとマスクして出社していれば今頃こんな蒸れた暑苦しい布団の中でゲホゲホいいながら汗塗れになって寝込まなくてもすんだのよ、わかる!? コレ!!
 第一あいつタンブラーも持ってきているくせに直ぐウォーターサーバの水やたら飲みまくるしその紙コップがゴミ箱にたまってウザいし、独り言多いわ、前髪ぐっしゃぐしゃ掻きむしるわで生理的に無理なんだけど、あぁむっかつく。マジであり得ない。

『留守中なにも無かったかい? …っ、すまないっ、潮風にやられちゃったかな…うっ、ゲホゲホ…あっ、水くれ水っ』

 何が『潮風にやられちゃった』だよ!
 体調管理も仕事の内…って、そりゃ今の私が言える事じゃないでしょうに…でもねっ、でもっ! …あんたが出社するまでは私の喉は全っ然通常運転ぶっちぎりでしたし…あぁあ、やっと勝ち取った休暇だったのにー!! なぁんでいきなり喉がかさついたかと思ったらこんな熱出ちゃうわけぇ!? しかも節々痛いし熱でふらつくから車出せないし、独りだから病院行くのもしんどいし…。

 はい私、現在熱38.8℃ぶっちぎりです。
 休暇通り越して遂に入社して以来初めての『欠勤』です。

「それもこれも全部、あのバカの所為だっつーのっ!!」

 …うぅっ、叫んだら喉のウジャウジャが復活した。

 ソレもコレも皆あのバカ社長、トンチキなデコハゲ予備軍のすかしたアホ男の所為…でもあいつ流石に私抜きでスケジュール組めないだろうし困るだろうから、予め秘書課の後輩にSNSとメールで引継ぎしたし、今日一日ぐらいならなんとかなるだろう。でも心配でもあるかな…後輩が。

 我がボス・カプセルコーポレーション代表であるトランクス…という男は、外見だけなら大層麗しく有能そうに見えるが実は…かなりのマヌケで阿呆である。
 いや、訂正しよう。彼は彼なりに頑張ってはいる。
 だが突発で「やっぱりこれは見直すべきだ」「この承認はすぐにしよう」「新しい打開策を打ち立てよう、それも本日中に」だのと、次々と無理難題を作り上げ、組み立てる。そうして勝手に秘書であるこの私をも巻き込むのだから、たまったものではない…しかもタイムスケジュール組み立てられないし、計画性皆無だし。
 秘書課のみんなは「若様ってカッコいいしお優しいし素敵よね〜」とか騒いじゃってるけど、あいつ結構気紛れだし癇癪持ちだし、おまけに裏で私相手にはふんぞり返って威張ってるのもムカつくんだ。完徹明けに私のハンドタオルで顔拭った恨みもけっして忘れはしない。末代まで。

 それより…なにより、あいつは私にとっての『宿敵』だ。
 何故なら———、







 Erste Liebe 〜エーアステ・リーベ〜







 …えぇっ、ウソっ…で、電話ぁ…!?

 慌てて携帯を手繰り寄せ、その表示された『名前』で思わずギャッ、と叫ぶ。えっ、えっえっ…いや待て落ち着け落ち着け!! 出ろ私!!
 私は熱で朦朧とする中、かろうじて老婆のような声を振り絞り「何か御用でしょうか」とだけ。それが精一杯なのだ。
 生憎と私、本日は体調不良で臥せっておりますので———と付け加えれば、電話先の呑気なトーンが『あ、知ってます』と軽く微笑む(見えないけど、そういう声だった)。
『夏風邪ひいたと、ブルマさんやトランクスから聞きました。なのでお見舞いに伺いたいな、と思いまして…』
 …へっ!? ちょまっ、いやあの…あれ?
「あの、今、なんと…」
 嗄れた喉に喝を入れつつ、私は再度、電話の主の意図を伺う。すると彼は『あっ、住所は大丈夫ですよ。トランクスに教えてもらいましたから』と…! あっ、あの野郎…なんて余計な真似を…ふざけんじゃねぇ。
 いやその前に私、昨晩は風呂すら入っていないのだ。おまけに部屋中脱いだ服やら放りっぱなしのゴミが散乱しているし、いきなりの来訪は困る。
 だから私は色々言い訳をして断ろうとした。
 熱も酷い上、咳も凄いから本日はお引き取りいただいた方が宜しいかと。あ、もし万が一感染してしまったらそれこそボスに合わせる顔がございませんから…と。

 だが、相手は引き下がらない。というか、こちらの意思などうーもすーもなくただただ善意丸出しで『すぐ帰りますから』と言う。
 相手がブツッと電話をきる音。私の血の気がひく音。
 …ちょっ、待て。いやいやいや…無理でしょ、コレ!!

 私は即座に飛び起き、
「ゴミ…ゴミっ、うわ、待て待てこれ隠さなきゃ…って、流しヤバ…っ、ってあぁあもうっ!! シャワー、シャワー…!!」
 一気に複数の用事を片付け、自らをかろうじて『見られる』状態に仕上げ、部屋着にカーディガンを羽織り、ハァハァ言っている所にインターフォンが鳴った。モニターには、童顔のがっしりした男子がひとり。なんだか色々と手提げ袋をぶら下げ、額の汗を拭っている光景。
「あっ、秘書さん! こんにちは孫 悟飯です!!」
 はい、知ってますよ。
 私は即座に「玄関口までにしていただけますか」と、咳をする。
 だが、
「実はブルマさんからも色々預かってて…」
 ぐいっ、と大量の紙手提げ袋を突きつける姿に私は「はぁ…」となる。ならば仕方ない。
「…分かりました。では、どうぞ中へ」
 私は慌てて眼鏡をかけマスクを着用すると、なんとか壁伝いに玄関先へ向かって解錠した。すると、少年のような顔立ちをした、しかし凛々しくもがっしりとした男性が一人、わさわさとした手荷物を持ち、佇んでいた。爽やかな中にしっかりとした逞しさと、やや大きめの黒い瞳が思い出そのままに其処にいた。
「いきなりですみません。すぐ、帰りますから」
 呑気そうな面持ちの中に一瞬だけこちらを気遣う表情を湛えた青年の姿が開口一番「…大丈夫ですか?」と。
 いや大丈夫じゃないから寝ていたんだけど…でもっ、大丈夫…!
 マスク越しからヒュゴー、とか嫌な音が鳴る中、
「…心配ご無用です。でも手短に願います」
 と、彼———孫 悟飯さまを中へと招き入れた。

 さっきまで煎餅布団とペットボトルに下着が散乱していた我が部屋はなんとかかろうじて『出来る女の部屋』風に設えてある。孫 悟飯さまはきょろきょろとしながらも「すぐ帰りますから」と、手提げ袋の中身を素早くテーブルの上に置くと、手早く簡潔な説明を始める。副社長から預かった果物の一部を食べやすくカットしたもの(タッパーで小分けにしてある)やら、喉に効きそうな冷やし飴、レトルトの食品、などなど。
 簡素なカットソーとボトムスだけの出で立ちだが彼、相当洗練されて垢抜けてきているなぁとか、それもこれも皆あのバカ社長の為なんだな…と、熱に浮かされた中でぼーっと観察していると、
「…あの、大丈夫です?」
 ———病院、一緒に行きましょうか?
 その歳にそぐわない童顔が間近に迫ってきて、私は慌てて首を左右へ振ると丁重にその申し出を断らせていただき「社長は如何でしょう」と、質問を投げる。
 曰く、予想通り、あの上司は朝っぱらから「ええぇ…!? あ、ああぁ…あぁ、」だの意味不明な咆哮と呻きを繰り返した挙げ句に「どうしようっ、どうする…どうすればいいんだ…」と、髪を掻きむしったらしい。
「昨日、強引にでもあいつにマスクをはめておけばこんな騒動にはならなかったんですけど」
 と、孫 悟飯さま。
「で、ブルマさんに叱られて泣きついて狼狽えながらでなんとか臨時の秘書さんと一緒に駆け回っているとか、本当に『なんとか』らしいですけどね」
 ———メール確認と押印作業だけで、なんと大袈裟な。
 あいつバカか、馬鹿かデコリン。
「こうなったのも同居人である俺の責任ですし、以前から秘書さんにはお世話になりっぱなしでしたから…ですので、お見舞いしたくて時間作ってきたんですよ」
 にこっと微笑んで両手を組む仕種は成程、その整った造作を朗らかで親しみ易い雰囲気へと変容させるスパイス。スーツと云う名の戦闘服を着用させて佇ませたら瞬く間に翳りのある異性になりそうなのに、こういう素朴で子供らしい笑顔がなんともいえず胸をくすぐった。
「…大学の単位は、大丈夫なのでしょうか」
 無難な質問を投げれば彼は口角を少し下げ「ええ」と頷く。
「もし失礼でなかったら、何かお手伝いはありませんか?」
 買ってきて欲しい物とか、なにか自分に出来そうな用事があればなんですけど…と。
「こういうの、俺相手じゃ頼み難いですよね」
 せめてブルマさんも来られたら良かったんですけど、と彼。
「いえ…副社長も社長同様、とてもご多忙の身の上ですし…」
 なのに、一介の秘書一人にここまで気を遣わせてしまうとは…不甲斐なさ過ぎる。そもそもあの親子は本当にお人好し過ぎるのだ、この男性も含め、本当に…。







 ———母と、ブルマおばさん。

 私の実家は元々、細かなパーツを作る製作所をしていた。

 父は他界し、母は女手一つで私を育て、残った数人の社員と共に製造と発注に追われながらも充実した生活を送っていた。
 だけどそんな折、唐突に私達を取り囲む環境が変わっていき、気付けば戦火と瓦礫が日常の全てとなる生活を余儀なくされるようになってしまった。

 材料となる金属が入手困難となり、給料を滞納せざるを得なくなり、やがて母や私の元から社員たちが離れていき、がらんどうとなった工場や敷地を手放さなければならなくなった私達母子は、路頭に迷った。

『あらっ、これしっくり馴染むわね〜、箱ごと全部ちょうだい!!』

 とある街で開催されていた蚤の市。
 私達は、ブルマおばさんと出会った。

 ゴムで一本に縛りあげただけの髪。母と同じくマシンオイルで汚れた作業着を纏った出で立ちだったけれど、彼女はとても綺麗で素晴らしかった(格好はひどかったけれど、彼女はいつも良い香りがした)。
 そして変わり者でも、あった。
 女の人なのに機械を弄って、凄く難しい図面を書いて、凡人じゃ思いつかないような発明をしてたり、あっという間に壊れたものみんな直せちゃうの! しかも、とっても綺麗で明るくて、いつも甘いお茶とビスケットをご馳走してくれるんだ…!
 彼女はいつも気前良く母のボルトや螺子を買い占め、もっと良いもの作ってよね、と応援してくれた。大切な顧客としてでなく、気付けば私達母子は彼女を『戦友』として受け入れていた。

 だが、母の身体もそう長くはもたなかった。
 私は、15の頃には天涯孤独の身となっていた。

 …政府も防衛庁も死に絶え、秩序の欠けた世界でたった独り、学も経験も無い私のような子供がどうやって生き抜けばいいのか路頭に迷った。
 だが幸いな事に、瓦礫の撤去や救済活動といった、およそ学歴など必要としない場は幾らでもあったし、しのげるだけの食糧を其処で手に入れ、私は18の歳まで生き抜いていった。
 そしてまた、勉学も、怠らなかった。
『勉強は誰にだって出来るし、場所や立場もみんな関係なく、平等だ。それにほら、またひとつ新しいことを覚えると楽しいだろう?』
 …もうひとりの恩人、『彼』にもらったドリルや参考書を元に。







「さぁ、出来あがりましたよ。熱いから気を付けて」

 半透明の、湯気たつトロトロの葛湯。
 ミルクパンとコンロで手早くそれらを作ってくれ、ニコニコと微笑む顔には善意しか無いのだが…これ、結構まずい状況じゃない? でもいっか、だってあのバカの所為なんだし、有り難くその葛湯を頂く事にする。ひりつく喉に優しく沁み入る素朴な甘さがなんとも有り難い…私、結構お腹減ってたみたい。すぐに完食してしまった。
 そして改めて、気付く。今日は真夏日、彼の額に大粒の汗が浮かんでいた事に。
「…冷たいものでもご用意いたしましょう」
 そう言い立ち上がろうとするが「いいですからっ」と、遮られ断念。秘書さん病人なんだから静かにしてなくちゃ…と。
「でも、食欲はあるみたいですね」
 良かったら、こっちの果物とおかずも食べてみますか? と、凄く甲斐甲斐しいのが嬉しくも恥ずかしい。
「こっちが、高野豆腐。東地区ではポピュラーな食べ物なんです」
 豆腐を凍らせ乾燥させるという、独特な製法によって作られたそれは甘く煮付けられ独特な食感、噛み締める度にじゅわっと冷たい出汁が堪らない。
 根菜と鶏肉の甘辛煮、白粥と洋梨…どれも発熱した身体に程よく沁み渡り、差し出されるそれらを私は欠食児童のように食べ尽してしまう。その傍らで、孫 悟飯さまは持参したペットボトルの水を飲みながらニコニコと眺めてらっしゃるのだ。…なんとも気恥ずかしい光景である。
「食べ終わったタッパーはこちらで回収しますね」
 お口に合ったようでよかったです、と満面の笑みを浮かべる姿が神々しくて、内心私はもう目を潤ませて飛びつきたい衝動にかられたのだが…いやっ、ダメだダメダメ、この御方は…ボスの大事な人である。触れるどころか想いを寄せるのさえも許されないのだ、それは知っている。

「ご馳走様でした。とても…美味しかったです」

 これなら明日にでも復帰出来そうです———そう告げれば、
「念の為、明日には病院行ってほしいとトランクスも言ってましたので…」
 ———だから今週いっぱいは休養とって元気蓄えましょう、と彼。
「…ブルマさんからも言伝預かってるんです。秘書さんいつも駆け回ってるから、たまには休んでほしい、って。俺も、そう思いますよ」
 もう、副社長ったら余計な事を。
「…トランクスの奴も、本当に凄く反省してました。『いつもいつもやらなくちゃ片付けなくちゃ、と思ってるのに結局彼女にやらせてばかりで申し訳ない…』って。毎度毎度、突発で思いつくままに勝手やって付き合わせてしまっている、と…」
 カプセルコーポレーションが現状、トップシェアの座を保持する為にどれだけ労力費やしているか。そしてその傍らで講演会も行ったり、タイトなスケジュール管理を取り仕切る一方で、新人の育成も任されていると聞いております、と、社長の愛人が物悲しそうに微笑む。
「…でも、羨ましいです」
 だって今の俺ではあいつを支えてやれないから、と。
「折角また傍にいてやれると思っても俺には何も特技も才も無くて…結局、遠巻きに見守るしか出来ないのが歯痒いです。でも秘書さんは、あいつの傍であいつが戦うのをサポートも出来て、同等の立場でいられるんだな、って。それに…」
 逞しい全身を縮こまらせて正座をしていた彼がこちらをチラッと見、それからややあって「…トランクスの事、どう思います?」と問いかけてくる。
 なんだなんだそりゃどーいう意味? と、熱で浮かされた脳味噌をフル回転させ、しかし目前に顔を真っ赤にした青年が蚊の鳴くような声でもう一度「…その…少しは、異性として…」とか呟いちゃってるし。
 私は、大爆笑した。
 そっかそっか、この御方は…えぇいもうっ、なんつー可愛さなのだ!!
「ひ、ひ、秘書、さ…ん…?」
 腹筋崩壊より肺が裂けそうな勢い。約3分間は咳と爆笑に溺れそうになった私はとうとうマスクを外し、両手を振って「ないないマジで!!」と、ヒーヒーしながら叫ぶ。
「いえ…失礼。孫 悟飯さま、それは全くの誤解…いえっ、杞憂です!」
 何故ならボスと私は共通の繋がりで結ばれた『宿敵』同士であり———いわば男女などといった性別を越えた盟友でもあるのだから。
「私にとって社長は同じ時期を生き抜いた戦友ですし、副社長のブルマ様は…私に女性らしさと教養、社会でのノウハウをそれはもう厳しく叩き込んでくださった恩人。そのブルマ様のご子息であられる社長をお守りするのが私の使命ですし、第一、トランクス様は私のタイプではございません」
 左様。これは嘘偽りない事実。
「ですので、どうかご安心を。寧ろ、私は、貴方がたの関係を応援したく思っておりますし、貴方の幸福それだけを願っておりますから」
 ———そうだ。でないとブルマおばさんが悲しむ。
「でも、まぁ…万が一社長に不服がございましたらその時はご相談に応じますが。無論、同情もしませんけど」
「…そうですよね。周囲の反対を押し切ってまでこの道を選んだのは俺ですし…」 
「ならば何故、社長をお選びになられたのです」
「え、」
「…前々から気になっていたのです。貴方ならば安定した道を選べただろうに何故わざわざ、社長を選ばれたのでしょう? ブルマ様からも、孫 悟飯さまのご実家で縁談の話が沢山あがっていたとお聞きしました。確かに、社長は貴方を慕っておられるかもしれない。でも、肝心の貴方にそれほど激しい恋慕があったとは思えません…」
「そうかもしれません」
 ———置いていった自責の念が償いをしたがったのかも、と彼。
「最初は…迷ったんですよね。トランクスの為にならないし、あいつが何時かは別の相手…例えば女性に目移りしてもおかしくないだろう、って。でも気付いたら俺はもう、あいつしか見えなくなっていたんです」
 刷り込み…とでも言うのでしょうね、と彼は自嘲気味に笑む。
「でも、おかしいですね。他の人にこんな話はなかなか出来ないと思うのに…秘書さんにならすらすら話せちゃう…」
 普通なら俺が一度死んだ…とか、そんなの絶対言えないんだけどなぁ、と、孫 悟飯さまは肩をすくめ、ペットボトルの水をまた一口飲み「秘書さんも何か飲みますか?」と、腰を浮かせて距離をとる。

『キミも何か飲む? そうだ、寒いからレモネードにしようか』

「レモネードを所望します」

 あまりに遠く、でもけして手の届かない位置じゃなかった思い出が脳裏を過り、気付けば咄嗟にその飲み物を頼む自分がいた。
 だが相手は実に自然な流れで「冷たい方がいいですね」と、土産品の中からレモネードの瓶を取り出すと手早くグラスに注ぎ、用意してくれた。







 ———当時の私は性別なども気にかけていなかったから、ざん切り頭で過ごしていたし、冬場でも年間通してズタボロのシャツとジーンズで歩き回っていた。噛んだガムを髪にくっつけているのも日常茶飯事だった。
 そんなだから周囲には浮浪児扱いされていたし、話し相手は母しかいないし、気を許せる友達だなんて一人もいやしなかった。結構ひねくれていたと思う。
 …でも、この人は違った。周囲の大人や、偉そうな年上連中とも全然異なった穏やかさと清廉な雰囲気と、何よりも気取らない素朴な笑みがあの頃の私を惹き付けた。
 毎回私の事で気を遣ってくれるブルマおばさんにも悪いしと、多少大人ぶった口をきいて外で母の用事が終わるのを待っていた私に、背のちいさい目付きの悪い少年がちょっかいかけて突き飛ばしてきたのだ。それが今現在の…ボスである。

『ごめんね、いきなり乱暴しちゃって。ほらトランクス、謝りなさい』

 記憶の中の彼はとても背が高く、逞しくて格好良かった。
 この大陸では珍しい黒髪、意思の強そうな眉に優しそうな瞳。とてもがっしりした全身は鮮やかなオレンジの不思議な衣服を纏っていて、どこか独特な雰囲気を醸し出していた。
 彼はその意地悪いちいさな少年から私を庇い、丁度冷え込んで御手洗に行きたかったのを助けてくれた。その上、自身のお古であるオーバーオールとパーカーまでくれて、絵で解説されたドリルもおまけで持たせてくれたのだ。しかも、あったかいレモネードまで!

『ん? 此処は、さっきのあのおちびと、そのお母さんが住んでいるシェルター。…俺は此処で厄介になっている居候…といった所かな』

 …ブルマおばさんに息子が一人いるのは、知っていた。
 けれどその当時は面識も無かったし、ブルマおばさんと母が仕事の取引を行っていたのは『カプセルコーポレーション』のドーム内だったから、その薄暗い地下の空間で彼等三人が暮らしているというのも知らなかったのだ(後程、ボスから聞かされる事になるんだけど)。

 彼はまるで日向のようなあったかな人で、わざとらしい優しさや同情は一切見せない人柄なのは一目見て分かった。
 初対面の、しかも汚い格好をした胡散臭い私が『少女』であると気付いた後もけして『女の子らしくしろ』だの『汚いし臭い』だのと云った態は一切見せず、ただ一言。

『寒いからあったかくするんだよ』

 レモネードを飲んで、裏生毛のあたたかなパーカーを着せてもらった私は…数冊の参考書やドリルの入ったフェルト地の手提げ袋を手に外へ戻り、再び母が帰ってくるまで待ち…そして驚き顔の母と共に家へ帰った。

 そばかすだらけで、ぼっさぼさの赤毛。
 初めて『みっともない』と気付かされた。そして胸が痛かった。

 ———お日様の匂い、精悍な中に無垢を感じさせる微笑み。

 私はその日から淡い想いを抱き、
 そして数年後に———彼の死を知った。







「…あっ、こ、今度こそ帰りますね!」

 レモネード片手に気付けば軽く三時間は経過し、孫 悟飯さまは慌てて靴を履き「それではお大事に」と帰っていった。食べ易いようにとタッパーに小分けにされたおかずや白粥そして果物は冷蔵庫の中。生ジュースに冷やし飴、レモネードもたっぷりとある。なんとも有難い。
 ———あぁあ結局私の片想いのまま終わっちゃうんだなぁ、と悔しさと妬ましさそれと自棄が働き、またレモネードをぐっと飲み干してやる。

 帰り際、私が玄関口まで向かおうとすると彼は「足がふらついている」と支えてくれたり、明日は絶対病院行ってくださいね…と、とても理想的な異性そのものだった。
「…風邪ですし、あったかくしてくださいね」
 最後に、こちらが薄手のカーディガンを羽織っていた所為か…まるであの日と同じような言葉を投げかけられ、軽く既視感で胸がざわついた。しかし熱を測ると37.2℃と大層、調子が良い。

 思わず衝動的に携帯を手にし、私はボスに電話をかける。
 コール音二回の後、後輩が出たので「社長に代わって」と言い、一分後、奴は白々しく『やあ元気かい?』と薄笑いを浮かべたような声音で語りかけてきたから抗議してやった。
「あのですねぇ社長…っ! これ、どういう策略なんです!?」
『ああ…悟飯さんは無事そっちに行ったようだね、いやぁ良かったよかった。どう? 楽しかった?』
 …くっそ、あのデコリンマジ性根腐ってる…!! 一回あの触角焼き払って、それから頭皮にガムテープ貼付けてくれる…!!
「社長は、私が喜び勇んで元気溌剌、直ぐに出社するとでもお思いでしたか? …全く本当、底意地の悪い…」
『それはそれは。てっきりお気に召してくれるかと思っての事なんだけどね…ところでキミ、何時になったら復帰出来る?』
 キミいないとメールの捌き方やら、タイムスケジュールの調整がなかなか厳しい状況なんだよ…と、やや弱々しくなったボスの泣き言が始まる。知るかボケ。全部あんたの所為でしょうが。
『…ごめんな』
「…はい? 今、なんと…」
『…いや、別に。ああ、あのコウヤドウフっていうの、美味かった?』
 ———あれ、オレが作ったんだ———そういう爆弾発言されても今現状の私のキャパではついていけないんですが。え? マジ?
「てっきり社長はコンビニ弁当の申し子だとばかり…」
『失敬な。オレも悟飯さんの元にずっといるから、このくらいは作れるし嗜みだろ、普通。…で、美味かったんだな? そりゃ良かった』
「社長、あの、」
『ん? そろそろ会議近いから、手短かに頼む』

 あんなに素敵な恋人もう二度と現れませんよ、とか、
 あんなに甲斐甲斐しい健気な人、何処探してもいませんよ、

 とか、言ってやりたかったんだけど。

「塩、贈ってくださって、有難うございます」

 こいつ、私の初恋が彼だと知っていて、なんつー卑劣さなのか…早くこのグギギな状態ごと奴を懲らしめたい…いや待て、此処はひとつ、明日も孫 悟飯さまはこっちにいらっしゃると仰っていたし、精一杯、好意とやらに甘えてやろうか…うん、暫く出社しないぞ、絶対に。

「…今週一杯はお暇、いただきます。そして明日も…何かご褒美はいただけるのでしょうか」

 電話の向こうで『ぐっ、』とか言っているのが丸わかりで、これは結構楽しいゲームだ。よし、まだまだいけそう。

「レモネードや冷やし飴も良いですけど、ゼリーやアイスも欲しい所ですよね。でないと私、実は社長が髪掻きむしる癖や独り言うるさいのを後輩に暴露しても良いんですよ…あああと今回の風邪も社長がマスクしないで咳してた所為だって…」
『…ごめんな、本当に』
「いえ、構いません。元々、あの方は貴方のものですから」

 彼が一度迎えた最期は壮絶なもので、全身の繊維は高熱で凝固し片腕も失い、骨という骨は全て砕け、ぱっくり開いた疵からそれらが露出し惨たらしい有様だった。
 豪雨の後、自身よりも一回りは大きい『師』を担いでいた少年は目の周りを縁取る隈(くま)をも射抜く眼光でただ一言、呟いたのだ。

 ———ごめんな。

 すれ違う『彼等』と、水溜まりに跪いたあの頃の私は、最早あれらの間に一ミリたりとも己の入る隙は無いのだと思い知らされた。
 彼等は、私達とは違う人種であり…最初から立ち入る事さえ許されない領域にいたのだ。それだけは一瞬で理解出来た。

 ———この人の事好きだったんだろ、お前。

 でももう…何処にもいないんだ、と掠れた声で告げ、その『屍』を引き摺って地下シェルターへと入っていったあの日の少年が今、目に見えるように生気を取り戻し…そしてここ二年程でそれは陽気に変容した。彼の部下として配属が決まった当初は氷のような男だったのに。
 …それもこれも、あの御方が(信じられない事だが)生き返ったからこそであり、また孫 悟飯さまもどんどん光を取り戻してらっしゃるようだから仕方がないのだ。私の、初恋は。

『…今度、元気になったら美味いビストロ連れてってやるよ。勿論、ワインとデザートもつけて。別口のおまけはまた今度考えさせてくれ』

 その声音が本当にらしくなかったので、あの御方が私に嫉妬していた…と伝えてやるとボスは電話越しに『うぉぉぉぉ』と耳元で吠えだすからやってられない。馬鹿馬鹿しくなって切ると、鼻の奥がつんとして視界が歪む。
 これは、熱の所為だ。風邪の所為だと言い聞かせる。

 レモネードをまた一口、飲んでみた。あの日のものよりも甘かった筈なのに、それはやけにほろ苦く感じる味でもあった。







 END.




トランクスと秘書さんは歳がいっこ違い…ぐらい。
元々、赤毛だったのが大人になって金髪になり、
かなり美人になっていますが、本人は悟飯さん一筋。
でも天邪鬼なので普段はツンケンと悟飯さんに接する
かわいいひとなのでした。

トランクス、罪悪感を抱えつつも
部下に塩贈ったり。

「でも、これだけは譲れないんだ」



by synthetia | 2018-08-26 10:32 | (主にトラ×飯)駄文 | Comments(0)