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高宮あきと云う奴によるDBトラ飯ブログです。pixiv(9164777)もやってます♪主に女性向けなので、嫌悪感じる方はご遠慮下さい(汗)。


by synthetia

やきもち焼きな師匠駄文。

昨日、ぷらいべったーにて投稿した駄文です。

…現飯ちゃん→未トラ⇄未飯さん、みたいな。

いつも厳しめの表情ばかりの師匠、実は…みたいな内容です🌟
(というか、まんまなんですけど💦)

※作中『嘔吐描写』が含まれますので、
苦手な方はご注意願います。

それではどうぞ、お進みくだされ!!

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 トライアングラー







「トランクスさんっ!」
 自分を呼ぶ声にオレは思わず振り向く。
 少しゆったりとした紫の道着を纏い、くせのある黒髪を揺らしてだだだ、と駆け寄ってくるのは…『悟飯さん』だ。ずっと前に会った折にはオレの肩にも達していなかったその身長は今や、こちらの視線に追いつく程となっている。
「あの、おとうさんとピッコロさんからトランクスさんを呼んできてほしいって言われまして…あっ、お時間は大丈夫だったでしょうか!?」
 呼び出しに関する用件を軽く問うと悟飯さんは「今後の討伐や戦略について話し合いたい…とだけ伺っています」と、やや曖昧に返す。と、云う事はうちの師匠も同席かもしれないな、と軽い頭痛を堪えて天井を見上げていると真正面の相手は「…お疲れですか?」と、その無邪気な笑顔を曇らせた。
 正直な話、図星だったので「ええ、少しだけ」と、オレは本音を打ち明け、このところあまり睡眠をとれていない旨を悟飯さんに零し「帰ればメール対応が結構しんどくて」と、愚痴も添える。悟飯さんは「C.C.のお仕事も抱えてて大変ですよね…」と、軽く肩をすくめてくれるものだからオレも「全くですよ」と、軽く笑んでみせる。
「でも、皆さんが来て下さったお蔭で随分とラクになりましたし、バビディ達の策略もどんどん読めるようになってきましたからね。心強い限りです。後は…仕事、この期間だけでも減らしてもらえたら有難いんですが」
「ははは…こっちのブルマさんも厳しいですからね」
「自分には甘いひとなんですけど」
「う〜ん…それは僕にはなんとも言えないなぁ…」
 年下ではあるが、その年齢の割には空気を読むのが上手いのと、気さくに話せる相手でもあったから、オレがついつい悟飯さんとの談笑に夢中になっていると、カツカツカツ…と、やや早いテンポでこちらへ歩み寄る足音で我に返る。
 はっ、と振り返ると、其処には厳しい面をした我が師匠。
 オレの師であり、兄貴分でもある人———『孫 悟飯』が、いた。
 多分、オレがなかなか来ないものだから痺れをきらし自らこちらへ赴いたのだろう。眉間によった深い皺がその苛立ちを示している。
「…早くしろ。お二人をずっと待たせている」
「すみません。すぐ、そちらに向かいます」
 こちらの返事を待たず、師匠の悟飯さんはくるり、と踵を返し、奥の間へとすたすたと向かっていく。昔から時間には煩い人だ、オレは慌てて少年の悟飯さんに「では、また後で…」と笑いかけ、手を振ってくれる彼に礼を述べて師の後を追った。

 すみませんお待たせしました…と、合流するやいなや、
「…楽しそうだったな」
 師は少し口角をあげ「まあ、いい。息抜きも必要だからな」と意味深な笑みを浮かべるとオレの手を引き、会議室のひとつに誘(いざな)う。
 来客用スペースとして設えた空間、コの字状に並べられたソファーにはピッコロさんと悟空さんそして、天津飯さんとクリリンさんが座り待っていた。
 テーブルに地図と、衛星から撮影した上空の画像を出力したものがそれぞれに置かれ、敵の出現に対し防衛戦も予想されるから…と云う事で、どの区域にどれだけの人口があるのか、復興の進行状況、医療機関の有無等の詳細を再確認するといった内容だ。(※但し悟空さんはすぐに頭を抱え始めたけれど)
「トランクス。お前はこの世界の住民であり、オレ達より情報には長けていると思って呼んだ次第だが、どうだ」
 ピッコロさんからの発問にオレは「大まかなものでしたら今答えます」と返す。細かい数値や位置情報に関しては夜までなら用意出来そうな旨も伝え、ちょうど胸ポケットにしまってあってタブレットで復興の進んでいるポイントの説明をした。
「この間に悟天くんとトランクスくん両名が出撃した区域は…採掘が盛んな地域ですが幸いとして作業員は殆どおらず、負傷者もゼロです。但しこの大陸はこの子午線西側を境目に都市計画が進んでいるので、出来るだけ防御に専念したいところです」
「よっくわかんねぇが、とにかくこの辺で戦うのは避けてぇ、そういう意味合いでいいんか?」
「その通りです。あと、南東のこの大陸も自然保護区として定められた指定地域がありますので、野鳥や動物に危害を与えないようご注意お願いします。あとは…」

 それからというもの質疑が続き、回答とそれが繰り返され気付けばもう夕方である。オレ達は互いの顔を見合わせ「話していただけなのに腹減ったな」と笑い、そして会議室を出る。
「…地球人というのは、くだらんな」
 トレーニングルーム(最近かあさんがみんなの為にと開発したもの)から出てきた父と鉢合わせし、オレは「これも必要な事ですから」と、軽く流す。
「それよりも、とうさん、これから中庭でバーベキューやるんですよ。良かったら一緒に食べませんか? オレ達だけだと肉余っちゃうんで」
「あのバカがいるだろうが」
「あはは…まあ確かに悟空さんいますけど、その悟空さん当人が『みんなに腹いっぱい食わせてやる』とかで肉、調達しに出ているんですよね」
「勝手にやってろ。オレはオレの好きなようにやる」
「わかりました。では、気が向いたら是非、中庭にいらしてくださいね。時間は夕方の18時から開始ですので…」
「フン」
 相変わらずのしかめ面だけれど、実はとうさんも悟空さんに負けず劣らずで大喰らいだし、肉が好物なのは知っている。オレだって肉は好きだし、ちいさな二人組も大人顔負けによく食べる。
「あっはは、ベジータは相変わらずだな。でもあいつ、あれで結構いい父親やってるんだぜ」
 クリリンさんのフォローにオレは苦笑を浮かべ、それでは夕方まで自由行動を…という態で一旦、解散した。
 オレは、隣にずっといる師匠に気付き「悟飯さんもご自分の部屋に戻っていて大丈夫なんですよ」と声をかける。するとその小難しい表情は更に険しいものとなって「…ああ」とだけ残し、くるりと背を向けた。
 が、急に何かを思い出したのか、師匠はこちらへと振り返り「トランクス、」と呼び止めてきた。はいなんでしょう、と笑いかければ相手は「いや、いい」と、また背を向け、今度は振り返る事無く去っていく。
 …復活した当初。
 あまりの嬉しさと信じられない思いがあった。それ故にオレ達は互いにひたと見つめ合ってその身体を抱きしめたし、暫くの間はずっと行動を共にしていたのだ。…なのにここ数日、急に距離が開いた気がする。
 少年の悟飯さんと、オレの知る悟飯さん。
 どちらも同じ人間なのに、放つ雰囲気と眼光の違いだとか、これまで過ごしてきた環境と置かれた立場の違い故か、うちの師匠には独特な『威圧感』がある。…それは、過去世界から応援で駆けつけた年長組への配慮からか随分と抑えてはいるのだろうが、己の方針はけして曲げないし、時として多数決の必要な場面でも『最優先』を選択し、全員の反感を買いかねないケースも多かったりする。でもそれも全員の無事を思うが為の発言と行動だったりもするから、この頃では悟天くんやちいさなトランクスも師匠に懐き始めてはいるのだが…うちの師匠が苦手だと語るヤムチャさんや天津飯さんの意見が時折、とても痛いのだ。
 …いや、違うんだよな…。基本、うちの悟飯さんだって本当はとっても優しいし、子供好きだし面倒見だって良いし、誰よりも誰よりも平和とみんなが大好きなひとなんだ。出来ればそれを分かってもらいたいのだけど…。
「なんか、ぜんぜん、笑わないんだもんなぁ…っ…」
 昔からあまり大口開けて笑わない人ではあったけれど、一旦その面に微笑みが浮かぶとまるでタンポポみたいにふんわりと優しくなるのに、どうしてああもしかめ面ばかりするんだろう…。

「…あのぅ、トランクスさーん…?」

 思いがけず、真正面の『悟飯さん』にオレはぎゃっと飛び上がる。但し師匠ではない、過去世界の悟飯さん、だ。
 オレは思わず彼に向けて本音を洩らすと、相談された年下の存在はパチンと指を鳴らし「わかるっ、わかりますよ、それ!」と、廊下の壁に背をもたせかけて微笑んだ。
「悟飯さんは多分…気を張っているんですね。『自分がしっかりしなきゃ。何事もなく終われるように』って。…本当はもっと色んな事考えてらっしゃるかもしれませんが…少なくとも同じ『悟飯』ですから、分かる気がするんですよね僕…」
 ———僕も、おとうさんいなくなった後に悟天産まれて色々と気張った時期ありましたから…と語る、一見呑気そうなその笑顔の下に見覚えある翳りが覗いた気がした。こっちの悟飯さんも、相当な修羅場をかいくぐっているのだ。年下とはいえど、あだやおろそかに出来ない意見にオレは深く頷いた。
「えぇと…トランクスさん。実はですね、この間約束してくださったPC閲覧の件で伺ったんですよ。僕もおとうさんやピッコロさんの足を引っ張らないように、せめてこの世界の情勢やあらましを知っておきたくて…」
 未成年者だからと会議の席から外されているのを気にしているのか、悟飯さんはオレにこの世界の事をしきりに質問してきたりする。だがそれでこちらの足を止めるのも申し訳ないから…と、この間彼から『インターネット環境があるのならPCで色々と情報を閲覧したい』と申し出てきたのだ。
 勿論、構いませんよ…と、オレはプライベート用のマシンルームへと案内し、ついでにと先程の話題で色々と盛り上がる。その間に、先程の会議で問われた質問の内容を全てまとめたレポートの作成も忘れない。
「それにしても、うちの師匠ももっと悟飯さんみたいにニコニコしてくれたらいいんですけど。なんでああおっかない顔ばかりしてるかな…」
「あっははははは!! それ、悟飯さんに言いつけちゃいますよ!?」
「いっつも眉間にシワ寄ってるし、口なんて殆ど動かないし目付き悪いし…うぅん、悟飯さんと師匠が同一人物なのが疑わしくなってきましたよ…昔から全然、優しくないですしね…修行で殺されかかった事も沢山ありましたし…」
「…でもトランクスさん、『悟飯さん』がお好きなんですよね」
 無邪気な笑顔から一変し、本来の年齢に相応した面持ちに切り替わった過去世界の悟飯さんがオレを覗き込んだ。そうしているとああ、この人は孫 悟飯なんだ、と当たり前の再認識をさせられる。
「知ってますよ。僕があのひとの『代役』だって事は」
「い、いえ…!! そんな、事は…」
 図星。思いがけないカウンターにオレは突っ伏した。だが、相手はふっと目を伏せると直ぐに普段と同じ無邪気な表情に戻し、先を続ける。
「いいんですよ、全然。トランクスさんだって人間ですし、僕たち本当に貴方に恩がある身の上ですから。僕なんかでトランクスさんが息抜き出来るなら幾らだってご一緒しますよ。…でも…」
「『でも』?」
「あのですよ、トランクスさん。貴方の大好きな『悟飯さん』はちゃあんと生き返って、貴方のすぐ傍にいるじゃないですか。それをあんまり粗末に扱ってたりなんかしたらバチ当たっちゃいますよ? …僕で道草している場合じゃないと思うんですけど」
「あっ、え…いえいえいえ! べべべ別に悟飯さん、貴方をダシにしているとか、そういうのは全く無いつもりなんですが。それにですね…うちの師匠、どちらかといえば独りの時間を好むタチですし…こうして自由行動の時間も自室に閉じこもってしまわれますし」
「それもトランクスさん次第だと思いますけど…」
 ———僕もビーデルさんやピッコロさんがいなかったらなかなか外の世界に出ようと思いませんからね、と、悟飯さん。
「さて、僕は悟天達と一緒にその辺りでも散歩してきますね。トランクスさん…応援してますから、頑張ってください」
 あと数年もしたらこちらの身長を完全に追い越すであろう、ほんの少し未発達な身体付きの少年(もう『青年』で通るとは思うが)がマシンルームを後にする。
 彼には何も話していない筈だ。…オレの秘めた想い、は。
「頑張りたいけど、頑張れないんですよ…オレの場合は、ね」

 誰にも見せた事の無い、あのひとの本当の素顔。
 一度知ってしまったら求め続けずにはいられない蜜のよう。







 焔の爆ぜる音と、じゅうじゅうと滴る脂の焦げる匂い。
 まだまだ復興途中であれど、夜のライトアップやイルミネーション、走行するジェットカーのテールランプは西の都を煌めきで彩っていた。
 猟ってきたイノシシや獣の肉を悟空さんが処理し、うちの母親が用意したバーベキュー用の設備でそれらをガンガンと焼き、全員が腹を満たしていく光景はちょっとした見物だった。特にとうさんと悟空さんの「肉取り合戦」ときたらテーブルを揺るがす勢いで。
「ベジータっ、それはオラん肉だぞっ!!」
「ぎゃあぎゃあ喚くなっ、さっきから貴様、肉ばかり喰らいやがって…いいか、普通は『肉・肉・野菜・肉・野菜』で食うのが基本だ基本っ…おいコラふざけるなカカロットォォォ!!」
 …そして他のメンバーの面々も負けず劣らずの勢い。
 本日は無礼講とかなんとかで、ビール等のアルコールもたっぷり用意されているからほぼ全員、ジョッキで酒をあおりつつ肉に噛りついて随分と盛り上がっていた。
「おーいっトランクス〜、お前も楽しくやってるか〜?」
 気付けば、クリリンさんが伴侶である18号と一緒にビールを飲みながらこちらに近付いてくる。
「しっかしお前やこっちの悟飯って、サイヤ人の血をひいている割にあんまり食わないのな。あいつ、相変わらずむっつりして独りで食ってたから、こっち来いよーって誘ったんだけどよ…」
 ———なんかひたすら飲んでたから心配になってよ、とクリリンさん夫妻が耳打ちしてくる。あいつそんなにいけるクチだったか、と。
 オレの記憶だと…確か、悟飯さんは時々かあさんと晩酌はしていたが、あまりアルコールに強くなかったのは覚えている。
 それとも、平和になった今、リミッターを外して多少酒を過ごしているだけなのだろうか…と、よく焼けたピーマンに口をつけた所で、
「おい大変だ! こっちの悟飯が潰れちまったぜ!!」
 声の主は、ヤムチャさんだ。

 呼ばれるままに中庭の端に向かえば、我が師匠、ヤシの木に掴まったままグデングデンの泥酔状態である。かろうじて立ってはいるものの膝が笑っているわ、遠くからでも随分と酒臭い。おまけに普段の面影など微塵も感じさせないヘラヘラ笑いで「だ〜いじょ〜ぶ、れす…」と、片手をヒラヒラさせているその姿が全然大丈夫じゃないですよ。オレは慌てた。
「あ〜っ、すまん…こいつどんどん飲んでるからてっきりイケる口なのかと思って…」
「何をどれだけ飲ませたんです」
 聞けば悟飯さん、勧められるがままハイボールにワイン、コークハイに紹興酒とかいう東地区でポピュラーな酒までガブ飲みしたらしい。
 そうこうしている内に我が師匠はとうとう、くたん、とその場に尻餅をつき「くらくらする…」と呟きだした。これはまずい。
「ヤムチャさん。この場はオレがどうにかしますから、あっちの席に戻っていてください。あああと、みなさんに悟飯さんはもう休んだとだけ伝えていただけませんか?」
「ああ、わ、悪いな…それにしてもこっちの悟飯も全然、酒弱かったんだな…。知らなかったとはいえ、本当にすまん…」
 せめてもとグラスの水を持ってきてくれたヤムチャさんの好意に頭を下げ、オレはそれを師匠にちびちびと飲ませ「さあ、部屋に帰りましょう」と、その汗ばんだ肩を担ぎ、ゆっくり、ゆっくりと歩かせた。少し苦しそうな吐息からはむわっと酒特有の香りが広がる。
 幸いとして、おちび二人組には会わずに済んだし、非常にゆっくりとした足取りではあったが、悟飯さんはかろうじて自分の足で自室に向かってはくれた。けれど、照明の下で見ると髪の生え際から首筋、肌全体がまるで猿のように真っ赤で、これはどう見たって『酔っぱらい』そのものである。いつも生真面目で堅い雰囲気の悟飯さんらしくない光景だ。

 悟飯さん用に宛てがわれた個室に、着いた。
「さ、ベッドに腰掛けましょ…えっ、あ、あの…!?」

 それまでのろのろと歩いていた悟飯さんの動きが急にきびきびしたものへと変わり、まるでオレを無視するかのように急いでドアのロックをかけ、奥のバスルームへ駆け込む。…唖然として出入口前に佇んでいるオレの耳に、床に勢いよく叩き付けるその『水音』が届いた。
「悟飯さん…っ、悟飯さん、だ、大丈夫…!?」
 駆けつけて見下ろすオレの前には、ユニットバス一歩手前で四つん這いとなった師匠の苦しげな姿と…床一杯に拡がったそれ。内容物から察するに、バーベキューは殆ど胃に入れていなかったようである。
「悟飯さん…取り敢えず、動けます?」
 気まずいがこれを放っておく事は出来ない。オレはまだ苦しげにはぁはぁと息をついている彼を立ち上がらせる。額から左頬に刻まれた戦瑕と、大粒の汗。手足は震え、虚ろになった眼差しには涙が滲んでいる。多分ずっと我慢していたのだろうに、失敗した事を悔いているようだった。
「…大丈夫ですよ…口、ゆすぎましょう、ね?」
 半開きになった唇から顎、胸元から膝を濡らす吐瀉物からもアルコールのつんとした臭いが立ち込めてきている。これだけ吐いたのなら少しは楽になるだろうか…と考えていた隙にまた悟飯さんが「ぐ、」と、えずきだした。
「悟飯さん、ここに吐いちゃっていいよ」
 急ぎ、脱いだジャケットを師匠の口元に持っていき袋代わりにして、その背中を撫で続けた。まだ胃の中に残っていたらしい酒と、未消化の野菜と肉が分厚い布地を瞬く間に濡らしていった。
「げほっ、げほっ、ぐ…っ、はぁ…はぁ…」
「まだ苦しいですか? トイレ、入ります?」
 ぶるぶると汗ばんだ背中は矢張りオレより広く逞しかったが、彼は真っ赤な頬を更に上気させると小さく首を縦に振る。ならば、とゆっくりその身体を支えてやり、用を足すのを手伝った。

 窓を開けると、冴え冴えした月と澄みきった外気。
 もうシャワーを浴びる余裕さえ無さそうだったので、洗面器に湯をはってタオルを絞り、悟飯さんの身を清めて引っ張りだしたバスローブをその身体に羽織らせた。腰回りの帯はあえて緩めに縛る。こうしないとまた吐き気で困ってしまうだろうから。
「もう…あまり無茶しちゃ、駄目ですよ…」
 この人、昔からそうなんだ。必要以上に気張って強く振る舞おうとして…そのくせ時折こうしてオレにだけ手を焼かせるような真似をしちゃうんだから…。
 それにしたって、何故いきなりこんな自棄酒なんかやらかしたのか、と、ベッドで寝息をたてるその前髪に指をかけたところで、うっすらと目を開く師匠と目が合った。普段、深く刻まれている眉間の皺は一切無く、代わりに…まるで子供みたいな表情でオレをじっと見つめている。
 どうしましたか? と問えば、悟飯さんは急にオレの身体にしがみ付くと、勢いよくばすっとベッドにオレを押し倒した。酒の所為で熱くなったその全身は燃え立つようだ。いきなり転倒した事により、オレはちょっとした脳震盪にも似た状態でぐらつきながらも、ぶわぶわしたスプリングの軋む音としがみ付く悟飯さんの呼吸と体温に翻弄され、一気に鼓動が加速する。
「ごっ、悟飯さんっ、ちょ、くるし…っ…」
 ちょっといきなりどうしたんですか…と問えば、悟飯さんはオレの肩にぐりぐりと顔を押付けて「いっちゃやだ…」とだけ。
 ええ勿論しばらくは此処にいますよ心配ですから、と返せば、悟飯さんは首を横へぶんぶんと振って「やだっ、やだっ」と繰り返す。
「なんで、あっちばかり…」
「え…?」
「『悟飯さん』は、おれなの…っ…ここに、ここに、いるのに…っ…」
「あ…」
 とんとん、と握った拳でオレの胸を叩く師匠は酒の所為か、大分呂律の回らない口調でそれらの内容を訴え続けた。
「なんであっちばっかりいくの…っ、どうしてこっちにこないの…おれっ、トランクスの事心配で帰ってきたのに…どうして悟飯くんばっかり…!」
 ———えっ、え…?
「あっ、あのですねっ、悟飯さんそれ…」
 もしかしたらそれって焼き餅ですか…? と問いただしてみたかったのだけど、ふと見てしまったその表情があまりに可愛くて思わず釘付けとなる。伸びた前髪の間から覗く濃い睫毛と煌めく両目は潤んで、厳しめの表情しか知らないのかと言いたかったその面は上気して…柔らかな桜色の唇は泣きそうに歪んでいるのだから。

『あんまり粗末に扱ってたりしたらバチ当たっちゃいますよ?』

 あちらの悟飯さんがふと零した台詞が、よみがえる。
 …いやだって…まさかこんなにオレの事で嫉妬したりとか…考えた事すらなかったから…だってこの人いつも『やれやれ』って言いたげな顔しかしないし…オレとてもう子供じゃないからと、わざと背伸びして対応していたのが裏目に出た訳か。
 でも、心外だよ悟飯さん。
 オレは何時だって貴方の事ばかりしか考えてなかったし、貴方が復活するって聞いた時、どれだけ感激したかだなんて分からないでしょう? 前みたいに悟飯さんと一緒に寝て起きて、朝食とって勉強みてもらったりしたいなぁとか、平和になった世界を案内したいなぁとか、それしか考えてなかったんだから…。

「ごめん、悟飯さん。ごめんね、悟飯さん…」
 堪らなくなって、部外者の目が無いのを幸いにとオレは酔った悟飯さんの背中をそっと撫でて、それからくせのある黒髪をくしゃくしゃっとかき混ぜた。酒の臭いは相変わらずだけど、その中から昔から好きだった悟飯さんの匂いもする。
 なんて滑らかな首筋。相手が酒に溺れている隙にと、そっと数回唇を落とせば悟飯さんは子犬のようにくぅん、と鳴いて、オレへと更にすり寄ってきた。そして、ふんわりと花のように微笑む。あまりに愛おしい想いが去来したオレは己を保つのに必死だ。
「トランクス…っ、トランクス、だいすき…っ…」
 今度はその逞しい両腕で抱きつかれ、恐ろしいまでに欲望が高まったオレの中心が疼いて仕方がない。だが、当の悟飯さんときたらニコニコと微笑んだままやがては深い眠りに落ちたようだ。

 夜風が少し冷た過ぎる気もしたが、こうして悟飯さんの体温をかき抱いていられるなら、ちっとも寒くはない。うっすらと開いた半開きの唇からまたオレの名が零れ落ちて、夜の帳は銀のさざめきで埋め尽くされたのだった。







「あっ、トランクスさぁーん…! あっ、悟飯さんもご一緒なんですね!? いえいえあのですね、おとうさんがちょっと聞きたい事あるからトランクスさん呼んできてほしいって頼まれまして…」
 ああ分かりました今直ぐ行きます、と数十メートル先の少年に手を振るオレだが、真横の師匠はこれまで通り、堅苦しい面持ちを崩す事無く「さて、行くか」と取りつく島さえ与えない。
 だが、あの夜以来、気の所為かも知れないが、オレの『悟飯さん』も時折柔らかな笑顔を見せるようになったし、時折子供のように『俺も一緒に行っていいか』と、ちょこちょこオレの後についてくるようになったのが小さな変化である。

 心無しかうちの師匠、周囲とも次第に馴染んで独りきりの時間が減った、そんな印象さえ見受けられるからオレも一安心だし、また更に先のステージへと向かえる気がする。

 それでもやっぱり相変わらず、オレの愚痴などは全く聞いてくれないわ甘えさせてくれないのも悟飯さんならでは、で。
 そして、過去世界の悟飯さんにそれらを洩らせば「ご自分の口であっちの『悟飯さん』に伝えればいいでしょ?」と、かわされる。

「…トランクスさん、頑張って…くださいね…!」

 それは一体、どういう意味ですか…!?

 と、問いただす前に師匠の「早くこっちへ来い」で、オレはくるくるとせわしない。意味深な笑みと、堅い表情、どちらも同じ顔で。

 オレは———頭を抱えた。







 END.






本当は両想いな未来師弟。
悟飯ちゃんはとっくに気付いてる。



by synthetia | 2018-10-13 17:05 | (主にトラ×飯)駄文 | Comments(0)