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高宮あきと云う奴によるDBトラ飯ブログです。pixiv(9164777)もやってます♪主に女性向けなので、嫌悪感じる方はご遠慮下さい(汗)。


by synthetia

トラ飯駄文、再び。

ぷらいべったーでアップ(※正確に云うと、スマホ直接入力)していたトラ飯駄文を、此処にもアップします🌟

あくまで濡れ場も無くプラトニック…な感じですが、トランクスの心情がメインというか『15分ドラマ』的な短さを目指してみたのですよ!
お暇潰しにしていただければ幸いです。

 ↓     ↓





 飛沫く、水溜まりと沈丁花。
 足先の冷たさに歩が止まりかけるが、数メートル先の桜がオレの目を引く。あれだけ楽しみにしていた満開のそれが、降りしでる雨を重たげに受け止め、枝はくったりと鉛色の空の下で項垂れていた。

 週末、花見でもしたいな―――と、眼を煌めかせ語っていた悟飯さんの上気した頬と微笑みを思うとやりきれなかったが、天候は、人間の思惑など知る由もないのだ。仕方がない。

 ―――天がばりばり、と轟いた。
 鳴り響く、閃光。稲妻だ。

 桜の花が嘆き悲しんでいる気がした。
 だがオレは踵を返し、自宅のマンションを目指す。
 ますます酷くなりつつある豪雨と『春一番』の嵐は、折角のスプリングコートを濡れ鼠にしつつあった。…だから言わんこっちゃない、と、あのひとに叱られてしまうだろうか。
 天候予測は早朝から雷雨の予想を告げていたし、なればこそ車を使うべきだった、或いはレインコートを兼ねたものを着用すべきだったろう。しかし今日は、歩きたかったのだ。
《桜の花を、見たかったから》

「…只今、戻りました」

 暗がりではあるが、確実に『彼』の気配がしたからこそオレは靴を脱ぎつつ、奥の間へと声を投げる。
 すると、激しい雷と、射し込む光。
 それらの内から更に、己の研ぎ澄まされた五感に訴えかけるもの―――彼の香り、息遣い、震える吐息までが直に伝わってきたので、濡れた出で立ちはそのままに流しのタオルを手繰り寄せ、軽く髪を拭いつつ、オレはあのひとの元へと辿り着いた。

 暗がりの中、ベッドの隅で丸くなった塊。
 否―――毛布を被り、身を潜めているのは…かつての師匠、現在の同居人である悟飯さん、そのものだった。







 雷 桜(らいおう)







 …何故、電気もつけず、このような愚行に及んだかは…かつてのオレならば予想さえ出来なかったろうが、今なら、解る。

 やっと帰りましたよ―――と、そのあたたかな塊にそっと手を伸ばした瞬間、

 これまでに無い天の咆哮。
 ズシン、と下界そのものを叩き斬らんとする激しい雷がカーテン越しから耳を灼いた。

「………っ…!!」

 自ら、まるで助けを乞うような息遣いでオレの胸に飛び込んできた悟飯さんの髪もシャツも、びしょ濡れだ。時折ぴしゃん、と光る稲妻を頼りに辿ったその姿は、薄手のシャツにスラックスだけ。顔は、オレの首筋や肩に押し付けられ、ふるふるとおののいている。
 がしっ、としがみつかれ、照明さえ無い寝室のベッドの上で、オレは、めくれた毛布の湿り気と彼の香りを深く吸い込み、冷えきった手足すら熱く溶かすその体温をそっとかき抱いた。
「…怖かったんですね、雷…」
 ぽつりと零す。すると、こくん、と返す悟飯さんの動きが直に感じられた。

 窓を叩きつける春の嵐。
 花の優しささえかき消すこれが、
 真夏の手前の地表を削り濡らすこれが、
 オレは…嫌いだった。

 だが、この人は…ずっと昔から本来は苦手だったものや愛しく感じられるものをずっと封じ、あたかも戦神のように振る舞わなくてはならなかったのを思い返し、また一層と突き上げる想いでどうにかなりそうだ。

 顔、あげてください―――と頼み込むが、相手はぶんぶん、と首を振る。
 どうしてですか? と、問えば、相手は「やだ…」と、鼻を啜る。
「笑うだろ…」
「…笑いませんよ」
 こんないい大人が雷に怯えるだなどと…と、言いかけた彼を塞ぐかのようにまた一際激しい神の鉄槌。あーっ、と、悟飯さんはまた強くオレにしがみついてきた。
 雷雨はまだ、続くようだ。オレは黙って彼の額に唇を押し当てると「大丈夫ですよ」と、しなやかな髪を撫でて毛布で自分達をくるむと「ずっとこうしてあげますから」と、子守唄を口ずさんでみた。
 雷が落ちる度、悟飯さんはオレの腕の中でびくんっ、びくんっ、と反応していたが、次第に落ち着きを取り戻したのか「…いやな事、いっぱい、思い出すから…」と、零した。
 何かトラブルでも―――と聞けば、毛布の中でもごもごとくぐもった声で悟飯さんは「…キミが、産まれる前の、話…」と、言いにくそうだ。
「あの時も…俺、逃げる事しか考えてなくて…」
 …結局、みんなを二度も見殺しにしたから…と、彼は、己がどれだけ卑怯だったか、また、自らを下衆だと罵り、墜落する。
「俺は結局、何も変わらなかった」
 どんなに鍛えようと強くあらんとしたところでこのざまだ、と、オレの胸をこつん、と叩く。
「…情けないな…。平和になったらなったで、こんな天候の変化ひとつに怯えてさ」
「そんな事、ないですよ」
「知ってるか? 俺、実は他にも苦手なものが…」
「ゴキブリと百足」
 ―――言い当てたようだ。
 悟飯さんの鼻が、ぴすっ、と音をたてた。
「…え、あ…」
「知らないとでも思いましたか? もう二年近くも一緒に過ごしているんです、そりゃあ解りもしますよ…」
 だからもっともっと、本当の貴方の姿を見せてほしいんです―――と、オレは切なる訴えを彼に持ち掛ける。
「雨に打たれた貴方の身体を、あの日を思い返さない日は一日とて、無いんだ。それでも我を保っていられるのは悟飯さん、貴方が、毎日、毎日と、オレの知らなかった貴方を見せてくれるから…帰りさえすればまた、オレの知らない『未来』が待っていてくれるから、なんですよ…」

 迸る閃光に照らされた悟飯さんの、潤んだ瞳。それらを捉え、オレは、ゆっくり、出来るだけそっと彼の唇に己のものを重ねた。
 響きあう鼓動と、柔らかく脈打つ感触が、オレ達の立ち位置を示してくれる。絡めた指同士が汗で濡れていた。雷鳴がまた、響いた。

 長い抱擁の後、顔を離すとハックシュン! と、しまらない真似をしてしまった。忽ちの内に普段の声音で「風邪ひいたのか?」と、彼が首を傾げた。お蔭であれこれが台無しとなる。
「…髪だけでも乾かさなきゃ、な。ドライヤー、とってきてやるよ」
ぱちん、とつけられた照明の下で口角を持ち上げる相手の瞼は少しだけ赤く腫れてはいたが、瞳は何処か嬉しげに煌めいている。

「トランクス、今夜、頼みがあるんだけど」

 互いに髪を乾かし、代わりの衣服を着こんだところで悟飯さんは真っ赤になりながら、
「…雨、止んだから…夜桜、見に行きたいんだけど…」
 ―――週末までには散ってしまうだろうし、と、その黒目がちな大きな瞳をこちらへ向け「キミの好きなコンビニ弁当、おごるから」と、実に可愛らしい仕種(本人には自覚無いんだろうけど)で哀願されてしまうと、うぅ…と唸るしかない。もう外など出たくはないんだが仕方無い。
 この人、綺麗な物や花が、本当に大好きだからな…。

「場所、何処にします? きっと、先客もいるかもですし」
 そう答えれば悟飯さんはまるで十歳の子供のように「そこの、団地前の公園」と、答える。なるほど、確かに彼処なら誰も来ないだろう。ベンチも遊具も無く給水塔しかないから、只の空地にしか見えないスペースである。
 だが、ツツジや藤の花も楽しめるし、給水塔前の階段に腰掛ければ上等。ビニールシートもあれば充分だろう。
「…あそこ、通りの桜も眺められるし、穴場だろ?」
 悪戯っ子のようにふふっ、と笑った悟飯さんかオレにキスを重ね「じゃあ決まりだな」と、財布を片手に、シューズを履いた。

 あの日、失ったオレの英雄は新たな姿で咲き誇り、迷いと怯えの中で本来の人間性を取り戻し、共に同じ時間を過ごしてくれる。
 ばしゃばしゃ、と先を進む彼の足下は、街灯を弾く水溜まりが沢山拡がり、そこにひとひら、またひとひらと、淡い色合いの花弁が落ちていった。

 ―――ああ、綺麗だな。

 そう呟くと、悟飯さんは「うんっ」と、唇をほころばす。

 あたかも彼自身が花のように。





 END.


by synthetia | 2019-04-20 18:01 | (主にトラ×飯)駄文 | Comments(0)